「国歌斉唱時起立」に関する最高裁判決

昨年5月30日、最高裁第2小法廷は、入学時等における国歌斉唱時に教職員に対して起立を命ずる職務命令は憲法に違反せず適法である、とする判決を下した。この訴訟は、都立高校の卒業式における国歌斉唱時に起立せず、東京都教育委員会から戒告処分を受けた元教諭が、処分を理由とした再雇用の拒否は違法であるとして提訴したものである。一審判決は、一度きりの不起立で不採用とするのは裁量権の濫用に当たるとし、元教諭の訴えを容れ、200万円を超える損害賠償を命じたが、これに対し控訴審では、起立を命じる職務命令を適法とした上で、その遵守を拒否した元教諭の行動の義務違反を肯定し、逆転敗訴の判決を下していた。今回の最高裁判決は、国歌斉唱時に起立する事は「慣例上の儀礼的所作」であるとし、起立を強制したとしても、個人の歴史観や世界観を否定するものではなく、又特定の思想の強制や禁止、告白の強要とも言えないとし、思想・良心を直ちに制約するとは認められないと判示した。これは「起立」を命じた職務命令について最高裁が行った初めての合憲判断だった。6月6日には、同じく都立高校元教諭らが起こした同様の提訴について、最高裁第1小法廷は元教諭らの上告を棄却、「起立」に関する合憲判断を行った。更に6月14日には、都内市立中学の教員・元教員の同様の訴えに対し、最高裁第3小法廷は同じく合憲の判断を行った。これで最高裁の全小法廷が合憲で一致したわけである。最後の第3小法廷の結果の内訳は、5人のうち4人が一致した多数意見であり、弁護士出身の裁判官が反対意見を述べた。因みに三つの小法廷を合算すると14人の裁判官のうち12人が合憲、2人(いずれも弁護士出身)が反対意見を述べたようだ。卒業式で君が代を斉唱するに際し起立を命ずるのは、教諭らの思想・信条にかかる内心の核心的部分を侵害するとは言えず、これに反した行動に対してなされた戒告処分も合法であると確定した。
その後も6月21日から7月14日迄同様の5件に対し、最高裁はいずれも被告の上告を棄却し、教職員らの全面敗訴となったが、職務命令違反による処分の基準に関して、今年1月16日新たな最高裁判決があった。入学式や卒業式で国旗に向かって起立して国歌を斉唱しなかった為、懲戒処分を受けた小学校及び都立高校の教諭らが処分(戒告・減給・停職)取り消しを求めた3件の訴訟だが、平成21年一審の東京地裁が、処分は全て合法としたのに対し、平成23年二審の東京高裁は殆どを違法と断じていた。先日の最高裁(第一小法廷・金築裁判長)判決は「職務命令違反に対し、学校の規律や秩序保持の見地から重すぎない範囲で懲戒処分をする事は裁量権の範囲内」との初判断を示し、更に一度の不起立行為であっても戒告処分は妥当とした。一方、不起立を繰り返して処分が重くなる点は「給与など直接の不利益が及ぶ減給や停職には、過去の処分歴や態度から慎重な考慮が必要」と判断、停職となった教職員2人の内1人の処分は重過ぎるとして取り消した。最高裁は、曖昧だった処分の基準を今回初めて明確にしたわけである。
それにしても、国旗に向かって起立して国歌を斉唱するなど、極々当たり前な事が、命令しなくては出来ないとか、不起立に対する厳しい処分は控えるなど、我が国は何とおかしげな国である事か。米国の幼稚園・小学校では必ず毎日、胸に手を当てて以下のように唱和すると言う。『 I pledge allegiance to the flag of the United States of America and to the Republic for which it stands ……』(私はアメリカ合衆国の旗、及びそれが代表するところの共和国に忠誠を誓います。……)。ますますグローバル化する国際社会の中での競争に勝たなければならないのに、これでは日本人は始めから負けではないか。学校の先生方よ、よーく考えてもらいたい。