国の衰退と没落――その1

京都大学名誉教授(教育学研究)・竹内洋氏の大著「革新幻想の戦後史」(中央公論新社2011)の最終頁が『繁栄の極みにあった国が衰退し没落する例は歴史に満ち満ちている。その原因は各種各様だが、ローマについては、パンとサーカスという大衆社会の病理により…

「国歌斉唱時起立」に関する最高裁判決

昨年5月30日、最高裁第2小法廷は、入学時等における国歌斉唱時に教職員に対して起立を命ずる職務命令は憲法に違反せず適法である、とする判決を下した。この訴訟は、都立高校の卒業式における国歌斉唱時に起立せず、東京都教育委員会から戒告処分を受けた元…

「教育勅語」誕生の経緯(2)

井上毅は勅語の草案執筆に際し、留意すべき以下の七点を挙げている。 1. 立憲君主制のもとにあっては、天皇と言えども「臣民の良心の自由に干渉せず」であるから、教育の方向を示される勅語については「政治上の命令と区別して社会上の君主の著作公告」と位…

「教育勅語」誕生の経緯(1) 

國學院大學講師・高森明勅著「天皇から読みとく日本」(扶桑社2002)の一節に「意外な教育勅語誕生のドラマ」があるのを図書館の立ち読みで見つけ、大変興味深くその骨子を記す事にする。 (1) 江戸時代はそれなりに経済的・社会的成熟水準にあったのだが、幕末…

北方四島返還―無策の10年を脱却出来るか 

今年6月から7月にかけて、筆者は東郷和彦元外務省欧亜局長の著書「北方領土交渉秘録」を参考に、短文「北方四島その1 、2、3」を書いた。その1では、1956年の日ソ共同宣言以降のねばり強い交渉経緯を経て、2001年にイルクーツクで森・プーチン会談が行われ、…

吉田茂の影の参謀・辰巳元中将

湯浅博著の新刊「吉田茂の軍事顧問・辰巳栄一」(産経新聞出版2011.7)の、私にとってのエッセンスを記す事にする。氏の略歴は「大正4年陸士卒業、同14年陸軍大学校卒業、昭和8年関東軍参謀、同11年英国大使館付武官、同17年東部軍参謀長、同20年第3師団長(南寧)、…

マスメディアの不当報道告発

H20年2月19日午前4時過ぎ、房総半島南方・三宅島北方の海域で自衛艦「あたご」と漁船「清徳丸」が衝突し、漁船は沈没、同船の乗組員(船主と長男)が死亡(5月20日認定)した事故に関し、翌年4月に横浜地方検察庁は、事故当時の当直責任者2名を横浜地方裁判所に…

軽い言葉の政策でなく人物を見よう

菅直人についての人物評価をまとめる。月刊「文藝春秋」(H22.10)の憂国対談で、ノンフィクション作家・保阪正康とジャーナリスト・徳岡孝夫とが、菅直人の人物評を以下のように行っている。 1. 腹の立つ事が三つある。(1)彼の視線というものは、ものを凝視し、きちっと直視…

ソ連の崩壊と日米同盟の勝利(古森2) 

古森義久の著書「アメリカはなぜ日本を助けるのか」の第9章の要旨で(古森1)に続いています。 1) ソ連の核ミサイルSS20 1980年代前半の核問題というのは、ソ連が1977年から西欧各国や日本を射程に収めて配備を始めた、凄い威力の戦域核ミサイルSS20の事であり、5年後…

憲法9条は対日不信の産物(古森1)

古森義久氏の体験的日米同盟考「アメリカはなぜ日本を助けるのか」が産経新聞出版からH23.6に刊行された。興味深い体験が語られているが、何件かを要約してみる。最初は憲法である。 1) 江藤淳氏の大胆な講演 1980年ワシントンでのある研究発表会で江藤淳氏…

競争嫌いの日本人

掲題は、大阪大学教授・大竹文雄氏の新著「競争と公平感」(中公新書2010) の第?章の表題だが、その言わんとする所は「我々は、市場競争のメリットを最大限生かし、デメリットを小さくするよう規制や再分配政策を考えるという、市場競争に対する共通の価値観…

北方四島返還―その3 [並行協議への再挑戦]

東郷氏の講演のあと著書「北方領土交渉秘録」を読み、引き続き氏の部下だった佐藤優氏のベストセラー「国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて」(刊行は新潮社2005.3、新潮文庫版は2007.11) を読んだ。各章は逮捕前夜・田中真紀子と鈴木宗男の闘い・作られ…

北方四島返還―その2 [日露交渉の壊滅と再興]

その1では、2001.3の森・プーチン会談で、「歯舞・色丹の引き渡し」と「国後・択捉の討議」の並行協議という日本側提案が、拒否されず辛うじて残ったと言ってよく、両国外務省はこの後者のテーマを今後どのようにさばくかにつき、それぞれシナリオを考える事…

北方四島返還―その1 [島が一番近づいた日]

三回のモスクワ大使館勤務、ソ連課長、条約局長、欧亜局長、を歴任し、北方領土返還交渉に深く関わった、現在京産大世界問題研究所長・東郷和彦氏の講演を聴いた(6月1日)後、2007年に刊行された氏の著書「北方領土交渉秘録」を読んだ。交渉の内幕を以下に要…

中学歴史公民教科書の採択―その2

その1で「偏向教科書駆逐」を言ったが、具体的な執筆例を今迄最も採択率の高かった「東京書籍」を例にとり、片や教科書改善の会の「育鵬社」と比較してみる。 (1) 神話・伝説の扱い: 学習指導要領には「神話・伝説などの学習を通じて当時の人々の信仰やもの…

中学歴史公民教科書の採択―その1

戦後一年半という早い時期に、GHQの強い指導で公布・施行された11条からなる旧教育基本法に代わって、「改正教育基本法(18条)」がH18年12月に公布されたが、これによって「真理と平和を希求する人間の育成」が「真理と正義を希求し、公共の精神を尊び、豊か…

「饗宴」後の中国はどこへ向かうのか

「日中をダメにした9人の政治家」という書名の石平氏の新刊があるが、書名と同じ第1章では、慎重さを欠いて台湾を見捨てた田中角栄・外交カードを中国に渡してしまった中曽根康弘・一方的謝罪で国益を毀損した宮沢喜一、小泉/安倍は逆に主導権を取り戻したが…

ほぼ当たっているメア氏発言

米国務省日本部長で元沖縄総領事のケビン・メア氏の「ごまかしとゆすりの名人」発言は、決して嘘を言ったわけでなく、実態はそれに近かったのだから言われても仕方がなかろう、と私は思う。一般庶民の多くはそうでないかも知れないから「沖縄人」でなく「沖…

日米同盟崩壊 

掲題は元アメリカ陸軍大尉の新刊著書の題名である。著者・飯柴氏は日本人であるが以下のように大変ユニークな経歴の持ち主だ。1973年東京生まれ、19歳で渡米、北ミシガン州立大学に入学し、士官候補生コースの訓練を終了。1999年永住権を得て米陸軍入隊。200…

米国は「日本の核武装」に異論なし 

掲題は月刊誌Voice 3月号掲載の、日高義樹論文の題目であり、以下はその要約である。 キッシンジャーは言う、「日本のような大国がなぜ核兵器を持たないのか。もっとも日本が核を持とうとすれば、世界中と難しい政治的やりとりが必要にはなろうが」。フェイ…

政治の迷走の責任は?

1. H22年1月の筆者のメモ 約100日の鳩山首相の言動を観察し、国際文化研究センターの猪木武徳所長が 『国民は ・明晰に説明出来る能力を持つリーダー、喫緊の課題を直視するリーダーを求めず ・「国民の為に……をさせて頂く」と言うなど、異様な低姿勢のリー…

日本に必要な核抑止力

小学館101新書「中国の核戦力に日本は屈服する」(伊藤貫著、2011) を読み終え、現代史復習の最終コーナーのテーマと思い、以下に要旨を記し、諸兄の関心を高めたい。著者は25年間ワシントン在住の国際政治・経済アナリストで、国際政治学で言うリアリスト派 …

三田の虚空蔵山

1月24日(月) 6時起床、今日は久しぶりの軽登山だが、いつもと異なり車でなく電車で、三回目の虚空蔵山を目指す。最近は朝晩の血圧測定を日課としているので、登山中もやってみようと血圧計を持って出かける事にした。朝食・着替え後の血圧測定では、最高/最…

週一観音山

我が家は阪急今津線「おばやし」駅から西の高台にある( )が、そこから西南西へ直線距離で約8km、六甲山東部前山の麓に「鷲林寺」( 標高330m)がある。空海が開創した真言宗の寺院で、本尊は「十一面観音」、盛時は76坊を有する大寺院であった。その裏山の山頂…

がんによる死 

東大病院放射線科準教授・中川恵一氏の「死を忘れた日本人」(2010年、朝日出版社)の出だしは、『「ねがわくは花のもとにて春死なん その如月の望月のころ」と詠った西行を引き合いに出すまでもなく、日本人は、死を意識して生きてきました。死は自らの心の中…

自民党立党時の政綱

吉田首相の「軽武装・対米協調」に反発して1954年に自由党を徐名された岸信介は、11月に鳩山一郎と共に民主党を結成した。’55.2の総選挙で民主党は第一党になったが過半数に至らず、岸は保守合同を主導して’55.11自由民主党を成立させ、初代幹事長になった。…

政界再編期待

拓殖大学大学院教授・遠藤浩一氏の「政権交代のまぼろし」(2010.2、産経新聞社)の最終章は「政界再編は必然」であり、これを参考にしながら掲題の件を以下に私なりにまとめてみる。 1. 戦後政治の流れ : 第1期は1945年に始まり、主権回復の成った1952年迄の…

アメリカはもう頼れない

掲題はハドソン研究所首席研究員・日高義樹氏の最新刊の書名(徳間書房)である。幅広い人脈から得られる情報に基づく日本へ警鐘には、いつも感銘を受ける。本書の要旨は以下の通りだ。 1) 米国の戦略の変遷 : 昔は敵はソ連であり、基地はドイツを中心とする欧…

奥琵琶湖展望の赤坂山                       

久しぶりで琵琶湖西岸の山に行ってみる事にした。比良山地の北の野坂山地にあり、福井・滋賀両県の境にある赤坂山(824m)だ。早朝6時自宅出発、名神高速道を京都東ICで下り、湖西道路を行く。途中で一般道161号になるが、高島市に入りその最後のマキノ町が目…

足利事件その後                         

私の小学校時代からの畏友・木谷明氏(元裁判官・現法政大学教授)が、冤罪がテーマになる場合のメディアにしばしば登場して、検察の正義の危さを訴えているが、その体質の酷さにつき私自身もレクチャーを受けたので、その典型的な事例・足利事件につき、以下…