アメリカはもう頼れない

掲題はハドソン研究所首席研究員・日高義樹氏の最新刊の書名(徳間書房)である。幅広い人脈から得られる情報に基づく日本へ警鐘には、いつも感銘を受ける。本書の要旨は以下の通りだ。
1) 米国の戦略の変遷 : 昔は敵はソ連であり、基地はドイツを中心とする欧州だったが、ソ連崩壊後、米国の安全保障体制の中心は中国封じ込めと北朝鮮の監視となり、この場合日本の基地と在日米軍が主役だった。ところが9.11後、敵は米国本土を狙うテロリストと中東のアルカイダになり、米国の戦闘はイラクとアフガンになった。ブッシュは、石油資源など国益を考え、イラクの次はアフリカだと言っていたのだが、オバマは頓珍漢にも資源の無いアフガンに攻め込んでしまって足が抜けなくなり、今や全面的な戦略体制の変更を余儀なくされた。
2) 米国の新しい世界戦略 : アフガン及びイエメンを睨んで、全ての陸軍部隊を重装備の師団編成から四千人単位の旅団編成に変え、高速輸送機C17でどこへでも展開可能な体制としている。航空兵力についても陸軍と同様に、有事の際は主力部隊が米本土から直接現地に飛ぶが、その一部はインド洋の中央にある英領ディエゴガルシア島に進出している。航空機としては黒い機体の無人偵察機グローバルホーク」・無人攻撃機プレデター」に加え、見えない爆撃機B2・長距離爆撃機B52などがある。要するに海外での駐留を避け、主力部隊を米本土・米国領・世界の海上・に置いて、緊急有事の際には急速展開する体制を整えている。
3) 米国のアジア極東軍事戦略 : 潜水艦と航空機をグアム・ホノルル・アラスカ(エーメンドルフ)に配備し、海軍基地をグアム・横須賀・佐世保シンガポールに置く。地上兵力の基地はスウォン(韓国)と沖縄だが、現在はイラクとアフガンに注力せざるを得ない為、空き家同然。本土の三沢・横田・岩国などの性格も、米本土からアジア・中東へ向けての不可欠の補給基地となって行く。無人偵察機が集めた情報が原子力特殊潜水艦・原子力ミサイル潜水艦に送られ、常に正確な攻撃が可能であり、中国軍とは遠い所から戦う戦略となっている。
4) 米国は日本を必要としない : 前述のような米国の新しい戦略的大転換によって、在日米軍の基地の役割は大きく変わり、その多くが地理的にも軍事的にも不必要になりつつある。ライス中将は「在日米空軍司令官は今後、施設の管理者になる。アパートの管理人と一緒で、日本にやってくる米空軍の為に基地を整備しておく事が仕事だ」と述べた。在日米軍基地が米軍にとり重要でなくなった事はそのまま、日米関係が疎遠になる事を意味する。
5) 日米は更に疎遠になる : 従って両国の関係を再構築しなければならないにも拘らず、両国ともそれを怠って来た為、そのツケが今我々に重くのしかかって来ている。自民党の歴代指導者達は日米同盟関係を決して粗雑には取り扱わなかった。森首相以下麻生首相まで自民党末期の指導者には、関係を疎遠にした責任が若干はあるが、日本が半世紀に亘って守り続けて来た日米同盟体制を壊し、中国やロシアにつけ入る隙を与えた当面の責任者は日本の民主党であり、その指導者である小沢・鳩山・菅の三人の反米政治家である。
6) 米国は日本を守らない : 尖閣諸島で日中の軍艦が戦火を交わした場合、それだけでは米国は動かない。中国が核兵器をちらつかせた時に初めて、抑止力として圧力をかけるのみ、と言うのが米国の本音だ。日米安保によって日本は守られている、と言う思い込みを正さないと、やがて日本は中国に政治的に抑え込まれ、軍事的にも屈辱を味わう事になる。これを避けるには、米国と共に戦う体制を作り上げ、米国の核兵器に手をかける権利を持つ事だ。