マスメディアの不当報道告発

H20年2月19日午前4時過ぎ、房総半島南方・三宅島北方の海域で自衛艦「あたご」と漁船「清徳丸」が衝突し、漁船は沈没、同船の乗組員(船主と長男)が死亡(5月20日認定)した事故に関し、翌年4月に横浜地方検察庁は、事故当時の当直責任者2名を横浜地方裁判所に起訴したが、H23年5月11日裁判所(秋山敬裁判長)は「回避義務は清徳丸側にあり・・・」として無罪判決を下した。地検は東京高等裁判所に控訴し、現在控訴審中である。
  「あたご」の排水トン数は7,750でエンジンは73,550KW、「清徳丸」は約15トンで435KW、排水トン当りのKWは、「あたご」9.5KW、「清徳丸」29.0KWである。すなわち漁船の方がずっと 小回りが利くし、「殆どの大型船はそのまま真っすぐ向かって来るので、自分らは先に回避する」というのが、漁師仲間の常識だと言われている。そんな事は専門家でなくても一般常識の範囲と筆者も思い、「大型船は、必要なら警報を鳴らしつつ、一定速度で直進(夜間なら直進ライト使用)する」のが事故防止の基本ではないかと、本件が話題になる度に筆者は言ってきた。ところが当時のマスメディアの論調は全く反対で、事故発生当初から「あたご側に全ての過失がある」と断定する報道を繰り返していた。朝日新聞海難審判前のH20.6.26の社説で「そもそも双方の位置関係から、衝突回避の一義的な義務はイージス艦側にあった」と断定したし、地裁判決後のH23.5.12に信濃毎日新聞は社説で、イージス艦が漁船より巨大である事を理由に「危険回避の責任はまず、海上自衛隊にあると考えるのが自然だろう」と主張した。その他怒涛のような、感覚的・感情的な報道や、数値・根拠に基づかない報道が殆どで、それに押されるように、刑事裁判前の海難審判ではH21.1.22、事故主因をあたご側とする裁決が下された。これは先述の視点からすれば大変驚くべき判断であり、何かがおかしいと感じていたのだが、さすがに刑事裁判では独自に航跡を認定したのだった。それによると、漁船はあたごの右側から接近、衝突約3分前まで、直進すればあたごの後方を500m以上離れて通過する針路を取っていた。ところが、その頃から漁船は何らかの理由で2度にわたって右旋回、あたごと衝突の危険が生まれた。あたごは後進し、汽笛を鳴らし信号探照灯で漁船を照らしたが、漁船は回避動作をとらず、あたごもすぐに停船出来ぬまま衝突――。検察官の主張した航跡は、海難審判で認定された航路に近かったのだが、刑事裁判ではその航跡は「航路特定の為、恣意的に僚船船長らの証言を用いていると言わざるを得ない」として却下されたのだった。
 さて、筆者としては、常識的に納得のいく判断が導かれた事を高く評価し敬意を表したいが、何とも腹立たしいのがマスメディアである。あれほど「あたご」を非難した朝日新聞は一言の釈明もしないどころか、判決後の社説で「無罪は事故の免罪符ではない」とし、検察官の失点をあげつらっている。ミスリードされた国民もこの経緯を思い起こし、報道記事に対する監視の眼を厳しく持たなくては悪質メディアを駆逐出来ない。