憲法9条は対日不信の産物(古森1)

古森義久氏の体験的日米同盟考「アメリカはなぜ日本を助けるのか」が産経新聞出版からH23.6に刊行された。興味深い体験が語られているが、何件かを要約してみる。最初は憲法である。
1) 江藤淳氏の大胆な講演 1980年ワシントンでのある研究発表会で江藤淳氏は「日本の憲法は米国が書き、日本に押しつけた。内容がもう時代に合わない以上、その改正には米側も協力すべき」と当時としては非常に大胆な主張をした。米国の知日派では護憲の意見が圧倒的で、ライシャワー元駐日大使も同じだったし、その本音は対日不信だった。10年程経った1992年、古森氏がガルブレイスに聞いた時も彼の発言は「日本が憲法を変えようとすれば、東アジア・西太平洋地域には激しい動揺や不安定が生じる」であった。
2) 憲法を起草したケーディス 1981年NYの法律事務所に75歳のケーディス氏を訪ねた。「上司経由で渡されたマッカーサーの指示メモに従い、憲法9条は私自身が書いた。戦力の不保持・交戦権の否認などの意図は、日本を永遠に武装解除されたままに置く事だった。その後長い間、日本を自国の防衛能力も意図も十分に持たない半国家として米側に依存させておく事が米国の為というのが、圧倒的多数だった」と氏は述べた。
3) 改憲賛成論の保守派重鎮 超リベラルのガルブレイスと同時期に面談した、共和党保守派の重鎮で安全保障の政策の権威であるニッツェ氏は「日本が9条を修正し、軍隊の存在を認知すると、軍国主義が復活するなどとする見方は、日本を信用していない事が前提だ。日本を真に民主主義国家として信頼するなら憲法改正に対し何の懸念も無い筈」と述べた。
4) ヘリテージ財団改憲提言 1992年頃保守本流の当該財団は(父親)ブッシュ大統領に「日本の民族精神の再形成=米国は責任ある日本の創造にどう寄与できるか」という題の提言書を書き、日本に対し独自の憲法の起草を求めるよう以下のように勧告した。「日本の憲法は第九条であらゆる力の行使や戦争を否定するなど、日本を世界の例外としてしまった。外部世界の出来事に責任ある関与が出来ない為、日本は外部世界を考えもしなくなった。九条は、正義や自己防衛の為の戦争も悪だと見なす消極平和主義の幻想だ。これが無くなると日本は軍国主義になる、という主張には意味がなく、軍国主義復活を防ぐのは無言のウソに基づく憲法条項ではなく、開かれた政治システムだ」。
5) (父親)ブッシュ大統領の返答 以上の様な背景のもと、古森氏はブッシュ大統領の公式記者会見で、日本の憲法について、「もし日本の憲法改正への動きが実際に大きくなったならば、米国は同盟国としてどう対応するか」と質問した。大統領のコメントは「日本の憲法はあくまで日本自身で決めるべきですが、日本の国会がPKO法案を可決した事は歓迎します。日本には確かに憲法問題が存在するが、日本には鋭い歴史感覚があり、変化のペースはあくまで日本自身に任せたい。その日本の自主的判断を私は必ず支持します」であった。
[筆者の感想] 憲法改正の手続きは憲法96条で、国民投票に依るべしと定められており、その国民投票法は2007年に国会で可決成立し公布されており、2010年に施行されている。安倍政権の尽力でここまでは来たが、その後が福田・麻生で停滞し、民主党政権になって以来それどころではなく、完全にストップしている。原発問題でしばらくは無理であろうが、それだけに惑わされる事なく、真剣に勉強し時至らば憲法改正の国民論議をリード出来る心ある国会議員の登場を期待したい。