競争嫌いの日本人

掲題は、大阪大学教授・大竹文雄氏の新著「競争と公平感」(中公新書2010) の第?章の表題だが、その言わんとする所は「我々は、市場競争のメリットを最大限生かし、デメリットを小さくするよう規制や再分配政策を考えるという、市場競争に対する共通の価値観を持つべきであり、市場競争とうまく付き合って生きて行かねばならない」であり、その要旨は以下の通りである。
1. 日本人は特殊?: 「貧富の格差が生まれたとしても多くの人は自由な市場でより良くなるか」の質問に、米・加・英・伊・中・印の各国で70%以上が賛意を表明するのに対し、我が国では49%だ。「自立出来ない非常に貧しい人達の面倒を見るのは国の責任か」に対しては、大半の国で80%以上が賛成、米でも70%賛成なのに我が国では59%に留まっている。
2. なぜ反市場主義に?:  「人生での成功を決めるのは、勤勉よりも運やコネが大事と考える人の比率」は米・中・加・韓などで30%未満なのに対し、日本は41%でありこれより多いのは仏・伊・露のみ、というデータがあるが、日本における勤勉の重要性の認識は、国際的にも低いものになっている。勤勉を重視する価値観の衰退は反市場主義につながる、という米国某教授の研究があるが、その結論の一つは「米国では欧州と異なり、産業化に先行して民主主義が確立しており、大企業への独禁法を始めとする規制など、経済政策における不公正を許さなかった。一方欧州では、大企業に対する反感は、社会主義的な反市場主義的動きとなって現れた」である。この指摘は、日本で市場主義が根付かなかった事の説明にもなっている。 また昨今の事例で言えば、本来無関係どころか相反するものである市場主義と財界主導(大企業主義)との区別があいまいになって、市場主義が既存大企業を保護する大企業主義と同一視されてしまい、反大企業主義イコール反市場主義になってしまっている事もある。
3. 市場経済のメリット: 2008年のサブプライム問題で米経済が不況に入り、米型の市場主義経済はすべてダメだ、規制を強化すべきという議論も多い。それは極端であり市場は失敗する場合もあれば成功する場合もある。経済学はそれを厳密に議論して来たが、失敗の典型例は供給独占と情報の非対称性だ。これらを抑制しつつ市場主義のメリットを最大にする社会の仕組みを考えて行くしかない。市場競争のメリットは何か。売れ残りや品不足が無く我々の生活は市場競争のお蔭で最も豊かになるのだ。しかし、人々の所得格差問題までは解決してくれない。これは所得の再分配に依らねばならないが、市場競争のメリットとは「市場で厳しく競争して、国全体が豊かになって、その豊かさを再分配政策で全員に分け与える事が出来る」という事だ。市場競争のデメリットは、厳しい競争にさらされるつらさと格差の発生だ。この二者の比較において、前述のように日本人の多くは、デメリットの方が大きいと考えるのだ。日本は市場競争のメリットを、自分たちに言い聞かせる努力をして来なかったのではなかろうか。例えば、消費者保護の仕事は、本来公正取引委員会の仕事なのに、消費者庁を別に作ったりする。行政も政治も、市場競争をうまく利用するという発想に欠けている。
4. 筆者の感想: 市場競争は、誰にとっても厳しいもの。競争させられるのは嫌いだ、という人も多いだろう。しかし、より豊かになれる事、誰にでも豊かになれるチャンスがある事は大きなメリットであり、競争に立ち向かわなければならない。人口が我が国の37%の韓国の、世界を又にかけた諸分野での活躍は目を見張るばかりであり、競争原理の徹底の成功は明らかである。お手手つないで一緒にゴールなどと教えている戦後教育の脱却から始めよう。