「饗宴」後の中国はどこへ向かうのか

「日中をダメにした9人の政治家」という書名の石平氏の新刊があるが、書名と同じ第1章では、慎重さを欠いて台湾を見捨てた田中角栄外交カードを中国に渡してしまった中曽根康弘・一方的謝罪で国益を毀損した宮沢喜一、小泉/安倍は逆に主導権を取り戻したが、その外交改革を無為に帰してしまった福田康夫などなど日中関係をダメにした指導者を糾弾している。これらは今や常識になっているので省略し、ここでは第2章を要約する。
(1) 1949年に全国政権を樹立してから死去までの27年間、毛沢東は史上最強最悪の独裁政治を行ったが、特に最後の10年の文革の時代は、億人単位の国民が迫害を受けた暗黒時代だった。その後勝g小平の改革が始まると、その右腕だった胡耀邦によって思想解放運動が進められ、知識人や若者達は独裁政治の終焉と民主主義の実現を目指した。しかし下からの反抗を勝g小平は許さず、共産党一党独裁を如何に死守して行くか、が勝g小平路線の中心点であった。
(2) 1989年の天安門民主化運動には、深刻化して来た政治的腐敗に対する反腐敗運動も含まれていた。腐敗の代表格は党と政府の幹部やその親族で、彼らは物資を横流しして不当な利益を得るのであるが、それには市場経済の存在が必要で、「権力+市場」こそが勝g小平改革によって提供されていたのだ。しかし天安門事件は「血の鎮圧」で終わり、民主化運動は壊滅状態になり、「人民による人民の為の政権」は虚偽のイデオロギーとなって人民の信頼を失った。
(3) 如何にしてその信頼を取り戻し、政権の長期安定化を図るかが大きな課題となり、勝g小平は市場経済への全面的移行を呼びかけた。経済を活性化し繁栄を図った上で、「党の指導があってこその経済の繁栄」という論理を成立させ、共産党一党独裁正当化の根拠とするわけだ。しかしこれにより政権の抱える腐敗問題は更に深刻化したのだが、勝g小平はこれを無視した。
(4) 中国科学院によると、国民総生産の一割以上が共産党幹部達の腐敗によって失われている。これに関連して最も深刻な権力の私物化は「売官=官職を売る」という汚職で、2000年前後から多発した「売官」は益々増大している。腐敗幹部・悪徳商人・エリート層は別として、今や一般民衆は大きな失望感を味わっている。正に市場経済の広がりに伴う腐敗の氾濫と貧富の格差の拡大を原因として、勝g小平が目指した共産党政権の正当化根拠は崩壊しつつある。
(5) 一方、高度成長を図る為に採用された二つの方法は、「固定資産投資の拡大」と「輸出の拡大」であったが、この二頭馬車の驀進は必然的に国民の福祉向上を極端に軽視する事になったし、慢性的な内需不足は中国経済にとって最大のネックであり続けた。今後とも政府は一層の投資で景気拡大を図る以外に方法はなく、経済の衰退は失業に直結し天下大乱となる。カンフル剤をカンフル剤だと承知しながら使って行くしかないところに、中国経済の絶望がある。
(6) 2006年に国営通信社・新華社が行った若年層を対象とする「意識調査」を行ったが、その結果は驚くべきものだった。質問は「あなたが最も賛同する政治理念はどれか。?自由民主主義、?公正と正義、?民族利益至上主義、?宗教信仰、?その他」に対し、なんと96%の人が?を選んだのだ。このような調査結果は悲しい限りだが、それは言う迄もなく共産党政権自身が行って来た「愛国主義教育」の結果だろう。この風潮のもたらす危険を回避すべく政権が考える事は、外部的危機を作り出す事であり、それはやはり台湾海峡東シナ海だ。今から20年余前の天安門事件も、共産党は軍の力に頼って存亡の危機を乗り越えたが、今度中国軍が再び動き出した時、東アジア全体が血まみれの激動の時代を迎えるかもしれない。