中学歴史公民教科書の採択―その1

戦後一年半という早い時期に、GHQの強い指導で公布・施行された11条からなる旧教育基本法に代わって、「改正教育基本法(18条)」がH18年12月に公布されたが、これによって「真理と平和を希求する人間の育成」が「真理と正義を希求し、公共の精神を尊び、豊かな人間性と創造性を備えた人間の育成」に変わり、又「普遍的にしてしかも個性豊かな文化の創造を目指す」が「伝統を継承し、新しい文化の創造を目指す」に変わった。何の規定も無かった愛国心に関しては「伝統と文化を尊重し、……我が国と郷土を愛する……」が追加され、教育行政に関する「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負う」については「国民全体に対し直接に責任を負う」が削除され、それに代わって「(教育は)この法律及び他の法律の定めるところにより行われる」が付加された。これに続いて、H19年6月は参議院本会議で「教育再生三法案」が可決され成立したが、これらは校長にリーダーシップを発揮させる「学校教育法改正案」、教育委員会に対する文科省の指示権を認める「地方教育行政法改正案」、不適格教員の排除を目指す「教員免許法改正案」などであった。この「改正教育基本法」と「教育再生三法案」は安倍首相の掲げる「戦後体制からの脱却」を目指す画期的な法律であり、また具体的には国旗国歌問題などを含めて教育現場の正常化や偏向教科書の内容是正が期待される大きな第一歩であった。しかしながら、日教組が支援する民主党政権になってからは折角の改正をあえて無視するとか、「教員免許法改正案」のようにこれを廃止する動きが出て来るなど、憂慮される時期が続いたのだった(昨年の参院選での民主党惨敗により、「教員免許法改正案」の制度廃止法案を提出できず、これを見込んで安心していたダメ教師は慌てふためいて受講応募に今殺到しているそうな)。
 その後の動きであるが、10年振りに学習指導要領が、教育基本法改正に伴ってH20年3月改定告示され、中学歴史公民教科書について言えば、新たに「我が国の伝統と文化に関心を持たせ、文化の継承と創造の意義に気付かせる」などが追加されたので、当然ながら各社教科書の新たな製作、文科省による検定、教育委員会による選択が行われるのである。教育委員会には県レベルと市町村レベルがあり、議会の承認で首長が任命するのだが、まず県レベルの教育委員会が教科書選定審議会(校長・教員・学識経験者……が委嘱される)に選定資料を作成させる。この選定資料を参考に市・県の教育委員会が当該校で使用する教科書を採択する(国立校・私立校は校長に採択権がある)。最初の製作・検定だが、昔からの5社・東京書籍・帝国書院・教育出版・清水書院日本文教出版に加えて、新参の自由社育鵬社の2社、併せて7社の中学歴史公民教科書が今年3月30日に出揃ったようである。今後前述の手順を踏んで、8月末日までに各校の採択教科書が決まり、来年度から使用が開始されるわけである。というわけで、5年前に安倍首相が植えた苗木が順調に大きくなるか否かは、今行われている教科書採択如何に依ると言っても過言でない。
 ところで、それまでの歴史教科書の偏向性を憂いて「新しい歴史教科書をつくる会」がH9(1997)年に設立され、出版社は変わったが、今回を入れて4回(H13−扶桑社、H17−扶桑社、H21−自由社、H23−自由社、に検定合格、翌年から使用開始)、世に問うて来た。H22から使用の教科書の採択率は扶桑社版と合わせて1.6%と推定されている。最新参の育鵬社(扶桑社の子会社)は「教科書改善の会」の支援を得て同じく偏向教科書に対抗すべく、H24から使用の教科書を刊行する。自由社育鵬社の採択率が併せて何%になるか、宣伝周知活動が行われているし、一方日教組を中心にその阻止に必死である。国民全体が強い関心を持って偏向教科書駆逐に協力すべきである。