中学歴史公民教科書の採択―その2

その1で「偏向教科書駆逐」を言ったが、具体的な執筆例を今迄最も採択率の高かった「東京書籍」を例にとり、片や教科書改善の会の「育鵬社」と比較してみる。
(1) 神話・伝説の扱い: 学習指導要領には「神話・伝説などの学習を通じて当時の人々の信仰やものの見方などに気付かせるよう留意する」とあるにも拘わらず、東書版には、神話・伝説に関する独立した項目は全くなく、指導要領から大きく逸脱していることは明らかだ。
(2) 豊臣秀吉朝鮮出兵: 育鵬の見出しでは、「朝鮮出兵」だが、東書では、「朝鮮侵略」である。
(3) 元寇の表現: 育鵬では「襲来」だが、東書では、「…元は日本への遠征を計画」である。
(4) 歴史上の人物: 東書では、「神武天皇仁徳天皇柿本人麻呂新田義貞中江藤樹徳川光圀新井白石上杉鷹山二宮尊徳勝海舟・クラーク・高杉晋作乃木希典正岡子規豊田佐吉柳田国男三島由紀夫」が出て来ないが、育鵬では「すべて出ている」。
(5) 沖縄戦集団自決: 育鵬では「米軍の猛攻で逃げ場を失い、集団自決する人もいました」とあるのに対し、東書では「日本軍によって集団自決に追いこまれた住民もいました」となる。
(6) 自衛隊: 東書では「…憲法は、自衛のための必要最小限の実力を持つことは、禁止していないと説明しています。しかし、平和と安全を守るためであっても、武器を持たないというのが日本国憲法の立場ではなかったのかという意見もあります。」「…自衛隊は日本の防衛という従来の立場に加えてさまざまな活動(PKOへの参加、紛争処理への参加、海賊対策のための護衛)にたずさわっています。またアメリカとの防衛協力が強化されてきています。一方で、このような自衛隊の任務の拡大は、世界平和と軍縮を率先してうったえるべき日本の立場にふさわしくないという声もあります。」などなど、今や少数意見の自衛隊違憲論の立場だ。
(7) 国旗国歌: 学習指導要領は国旗国歌の意義と、「尊重する態度を育てるよう配慮すること」を求めており、育鵬は、本文で取り上げると共に、コラムでも「国旗・国歌に対する意識と態度」を見開き2頁を使い、大きく取り上げているが、既存の教科書では数行程度の記述のみ。
(8) 基本的人権: 学習指導要領では人権尊重について「特に自由・権利と責任・義務の関係を広い視野から正しく認識させ」ると強調しているにも拘わらず、既存の教科書では「自由・権利」について20頁余も費やして書き込んでいるのに対し、「国民の義務」については最後に7〜10行程度触れているに過ぎない。正に付け足し的扱いであり指導要領に全く準拠していない。
(9) 南京事件に関する記述: 育鵬社と同様に頑張っている自由社版は「つくる会」が支援している
のだが、文科省の検定に対するつくる会々長の怒りを記載しておく。申請時の表現は「日本軍
による南京占領の際に、中国の軍民に多数の死傷者が出た事が、後に「南京事件」として宣伝されるもとになった」だったが、教科書審査官により「南京占領の際に、日本軍によって中国の軍民に多数の死傷者が出た(南京事件)」に変えられたという。申請本の記述の後半を削らせる事によって、南京事件プロパガンダであるという趣旨はすっかり変えられてしまっている、というのだ。
 さて教科書の採択権は県・市の教育委員会(私立は校長)にあるのだが、内容を検討するメンバーには当然日教組傘下の教員も多い。出来た選定資料に左右される事なく、教育委員自身がよく読み選定理由を自ら説明出来なくてはならない。現在の検定採択制度の下では国民一人ひとりが、県議会・市議会を通じて、教育委員を注視する必要がある。