足利事件その後                         

私の小学校時代からの畏友・木谷明氏(元裁判官・現法政大学教授)が、冤罪がテーマになる場合のメディアにしばしば登場して、検察の正義の危さを訴えているが、その体質の酷さにつき私自身もレクチャーを受けたので、その典型的な事例・足利事件につき、以下にまとめて見た。
1 足利事件 : 1990年、足利市の4歳の女児(真美ちゃん)がパチンコ店から行方不明となる事件が発生。翌日渡良瀬川河川敷で全裸遺棄された女児の遺体が発見された。彼の毛髪DNAが、女児の半袖下着に付着の精液のDNAと一致する(共に16-26)と言う事で、同市内に住む当時幼稚園バス運転手だった菅家さんが1991年に逮捕され、2000年に無期懲役が確定した。しかし当時のDNA鑑定は精度が低い事が指摘され(実際に、科学警察研究所[科警研]は16-26でなく18-30であったと1995年に修正している)、2009年に行われた新方式による再鑑定では両者のDNAは不一致と分かり、菅家さんは釈放され、2010年再審で無罪判決が下され宇都宮地裁は謝罪した。
 2 DNA鑑定 : DNA鑑定には旧式と新式があるが、当時は旧式(MCT118)しかなくこれで行われていた。旧式でも最新コンピューターを使った解析法があり、これによる筑波大学の本田鑑定では精液DNAは18-24、菅家毛髪は18-29と出たのだが、検察はこれを認めようとせず、あくまでも18-30が正しいと主張しているらしい。この主張が崩れると同様の多くの事件の再審に火が付くのを恐れているに違いないと弁護団は推測している。中にはDNA鑑定で有罪となり死刑が2008年秋に執行されてしまった飯塚事件(1992年に福岡県飯塚市の7歳の女児二人が登校中に行方不明になり、翌日雑木林で殺害され遺棄されているのが発見された)もある。
3 北関東連続幼女誘拐殺人事件 : 足利事件を含めて同様の幼女誘拐殺人事件が同じ頃同じ地域で5件発生している。3件は足利事件以前の1979 1984 1987に発生した殺人事件であり、いずれも未解決のまま、既に足利事件も含めて時効になっている。最後は1996年に、群馬県太田市の4歳女児(横山保雄さんの長女ゆかりちゃん)がパチンコ店から行方不明となった事件で、これは女児の行方が発見されていない為、殺人事件でなく失踪事件(横山ゆかりちゃん行方不明事件)となっており、時効が廃止されている。この解決を急ぐためにも半袖下着付着精液の再鑑定により、真犯人のDNAを確定しなければならないと足利事件弁護団は主張し活動を続けている。
 4 日本テレビ清水潔記者 : 清水記者が上記のような事件の取材を始めたのは2007年で、横山ゆかりちゃん事件の取材中に足利事件を知ったそうだ。ゆかりちゃん事件の場合、パチンコ店内の防犯ビデオにサングラス姿の男が写っていて、ゆかりちゃんの座っていた出入り口付近の長椅子に座ってタバコを吸っているのも写っていると言う。足利事件の場合には、真美ちゃんはパチンコ店の直ぐ裏手から河川敷に下りて来たと記者は見ていて、取材の過程で、赤いスカートをはいた幼女と細身の男が川の方に向かって歩いて行くのを見た4人の目撃者を探し出したそうだ。 そして目撃者達にゆかりちゃん事件のビデオを見てもらったところ、目撃者の一人が、その中のサングラスの男の歩き方と目撃した細身の男の歩き方がそっくりだと証言したそうだ。
5 筆者の感想 : 清水記者によると、真犯人の目途はついているようで、とにかく足利事件の半袖下着付着の体液によるDNAの鑑定に結着 (旧方式による場合で言うなら、18-30ではなく18-24である事、更に、新方式での再鑑定の実施) をつけ、真犯人逮捕を急ぐべしと訴えている。同一犯人による5件の悪質事件に思われるが、すべて未解決であり、警察の捜査力の弱体な事に、筆者も改めて慨嘆すると共に、捜査当局は真犯人の逮捕に向けて邁進すべきと考えている。