ピロリの除菌に成功                       

  先日お約束した掲題の除菌の経緯をご報告しますが、その前に最小限の復習をしておきます。ヘリコバクター・ピロリ菌は胃壁の中でなく、胃の表面を覆っている粘液の中に棲みついて、胃液を切り取って栄養としています。この菌は尿素(NH2)2COを分解するウレアーゼという酵素を多量に持っていて、胃の粘膜中に含まれている尿素を分解し、発生させたアンモニアNH3で自らの周囲の酸度を下げて、強い酸の中でも生き長らえています。
  さて、除菌ですが、「新三剤併用療法」と言って抗生物質二種と胃酸抑制剤を朝夕飲み、これを一週間続けます。胃壁のように組織の中ですと、血液を通じて抗生物質が十分に行きわたるのですが、胃壁の外の粘液の中の細菌の場合、駆除に必要な抗生物質の有効濃度を保つには、通常の二倍が必要です。抗生物質としてはアモキシシリン・テトラサイクリン・クラリスロマイシン・メトロニダゾールなどです。胃酸抑制剤はプロトンポンプインヒビター(PPI)と言われ、これによって胃酸分泌が抑制されてアルカリ性となり、ピロリ菌が言わば屋外に出て来るので、抗生物質の効きがよくなるのです。 副作用もなく一週間が無事に過ぎましたが、それから三週間して成功か否かの検査がありました。
  検査は空腹時に行なうのですが、具体的手順は次の通りで、尿素呼気検査法と言われています。 呼気サンプルをアルミパックにまず採取しておきます。次に13C(通常の炭素12Cの安定同位元素)で標識した尿素100mgを水100ccで溶解して服用します。試験薬服用15分後に呼気をまたアルミパックに採取します。服用前と服用後の呼気中の炭酸ガス質量分析計で計測します。あえて解説を致します。ピロリ菌はウレアーゼという尿素分解酵素を多量に持っていて、生き長らえるためにアンモニアを作っていると先述しましたが、その時当然ながら同時に炭酸ガスが発生しているわけです。試験薬の尿素を構成する炭素は13Cですので、服用後採取のアルミパック中炭酸ガスのCが13Cなら、まだピロリ菌が存在するというわけです。呼気検査後一週間で結果の通知があり、幸いにして完全に除菌されていると判定されました。
  以上は図書館で調べたわけですが、「ピロリ菌を日本人の胃から撲滅出来れば、胃癌は今の三分の一になると予想されるし、胃炎・胃潰瘍などの不快な症状から開放される」とありました。 考えて見れば、二十年以上前の十二指腸潰瘍以来何となく不快な時期がありましたし、胃の内視鏡検査の際、慢性胃炎と言われた事も時にありました。もう少し真面目に考え、早めに処置しておくべきだったと反省しているところです。しかし、こんな事があって初めて、胃壁が腺組織・粘膜・筋層・漿膜から成っているとか、腺組織は表層粘液細胞・壁細胞・主細胞・内分泌細胞などから成るとか、胃酸分泌の巧妙なメカニズムとかを知りました。 しかし、アルミパックの呼気の何を検出するのかとの私の唯一の質問に、掛かり付けの近所の医院の、四十ぐらいのその先生は炭酸ガスでなく「窒素」と言われたと、記憶してますが、何ともいい加減な事だと苦笑せずにはいられません。