21世紀・日本の行方               

「日本の失敗と成功」と興味をそそる書名の本がある。近代160年の教訓、という副題も、近現代史を読み直そうという者にとって無視し得ない。平成12年に扶桑社から出版された岡崎久彦佐藤誠三郎の対談記録である。東大教養学部教授だった佐藤氏は1932年生まれ、北岡伸一舛添要一御厨貴田中明彦など今後日本の政治思想をリードして行くに違いない人材を数多く育てたと紹介されている。
  序章は「歴史から何を学ぶか」で、歴史に学ぶ鍵は謙虚さ、驚嘆に値する先人の教養レベル、明治以降自国の歴史を否定する啓蒙史学の虜に、日本の歴史学界をゆがめたマルクス史観、現代人に歴史を裁く資格なし、学びて思わざれば則ち罔し、などが話題になっている。第一章は「日本が植民地化を免れ近代化に成功した理由」であり、1近代化の特徴と日本の成功理由、2日本の対応は中国・朝鮮とどう違っていたか、3明治指導者の資質とリーダーシップ、4日清・日露戦争の歴史的意義、5日本の植民地統治の光と影、6政党内閣への緩やかな転換、である。第二章は「民主化が行き詰まり軍部の政治化を招いた理由」であり、1第一次世界大戦後の国際関係の変化、2日本の繁栄と孤立、3経済危機と政党内閣制の行き詰まり、4満州事変の輝かしい成功が失敗の始まり、5大東亜・太平洋戦争の評価、である。第三章は「戦後日本の光と影」で、1対日占領政策と戦後改革の評価、2吉田政権から五十五年体制へ、3五十五年体制の崩壊とバブル経済の崩壊、となっている。
  終章が「21世紀・日本の行方」である。(1)国際関係の基本動向はどうかと言えば ・先進民主主義国の間は協力関係が強化されるが ・宗教的原理主義の政治的急進化で不安定が懸念され ・地球環境の悪化と資源問題の深刻化と ・大量破壊兵器の移転による途上国間のバランスの急変の危険性がある。(2)日本社会の変質として ・家族制度の解体によるアイデンティティの変質が懸念され ・否定されて来たエリート教育の復活の成否が極めて重要で ・欧米文化に対する深い理解と共にインド ・中国その他非欧米地域への開かれた態度が不可欠と言う。(3)世界史の中の近代日本と題して、日本は、非欧米地域において、産業化や民主化という点で自生的発展を遂げてきたユニークな存在であり、1930年代以降の日本の失敗と挫折は、後発国の成功の代償と言える、と述べ、来たるべき21世紀における日本の利点はどこにあるだろうか、と問うている。
  植民地化されず特殊な言語体系を維持し、大陸文明を摂取しながら占領されず、自ら議会民主政治と近代化の歴史を作った稀有な国であり、有色人種の非欧米地域に多大な影響を与えた。失敗はしたが、自分の手で自分の国を再創造する必要があり、憲法改正が国家再建の第一歩であると述べ、21世紀の半ばに日本文化の黄金期が到来すると結んでいる。対談後佐藤氏は急死してしまったが、この終章を特に若い人に心して読んでほしいと欣子夫人は願っている。