北朝鮮に憑かれた人々              

北朝鮮に憑かれた人々」という書名の本が最近PHP研究所から出版された。狐につかれたの憑かれたで、霊魂などに乗り移られた状態になる、と辞書にはある。著者は14年前まで30年以上朝日新聞に居た稲垣武氏である。まえがきより抜粋すれば、「北朝鮮に拉致された人たち五人が日本へ帰ってきた。なぜ四半世紀も帰国が遅れたのか。それは拉致疑惑を棚上げして、利権がらみのコメ援助などに狂奔した政治家、国交正常化のみを急いだ外務官僚、拉致を懐疑の雲に包んだ一部メディアや学者・評論家・ジャーナリストなどが、国民世論を誤道し、拉致疑惑への関心を薄めたことも大きい。しかし、金正日が日本人拉致を全面的に認めてから、国民の大多数は初めて迷妄と惰眠から覚めた。この本は「北朝鮮に憑かれた」徒輩の妄言の正体を暴露することで、日本国民が再び迷妄に陥らぬことを願って書いた。」とのことである。
  取り上げられるのは朝日(木村伊量佐柄木俊郎・岩垂弘)・毎日といった大マスコミ、小田実・和田春樹・坂本義一・吉田康彦・西川潤・高橋勇治・本橋渥・進藤栄一・高柳芳夫・杉捷夫・関寛治といった学者・文化人、野中広務加藤紘一河野洋平中山正暉田中真紀子村山富市土井たか子田英夫といった政治家、田中均・槙田邦彦ら外務官僚、その他労働組合の槇枝元文・岩井章らであり、証拠を挙げて斬りつけている。。
  朝鮮戦争の休戦協定が1953年に調印されたが、その6年後から在日朝鮮人北朝鮮帰国が始まった。「北」の目覚しい復興と発展ぶりが、進歩的文化人や新聞記者の「北」訪問記によって喧伝され、「北」天国説が定着し、それを心の支えに在日朝鮮人達は胸を弾ませて帰国船に乗ったという。西宮市立図書館での私の調べでは、59年から80年の20年間で28,448世態、93,339人に達した壮大な帰国事業であった。特に朝日は「北朝鮮の人民は皆いきいきと希望に満ちて生活している」と報道し誘導してしまったわけで、戦後日本の報道の最大の罪悪と言っていいと糾弾している。(朝日の左翼バネは、かつて十数年にわたって社内権力を壟断した、渡辺誠毅・秦正流・伊藤牧夫らの左派三羽烏が残した人脈が依然として幅を利かせているからであり、今論調や報道姿勢を豹変させれば、熱心な左翼市民運動関係者の反発を買い朝日離れを起こす危険があってジレンマに悩んでいると言う。)
  タダ取られに終わったコメ支援の責任者は河野洋平である。拉致被害者の家族会が反対を強く申し入れたが、河野外相は「自分が全責任を取って行なう」と広言し支援を決定した。河野の目論見はものの見事に裏切られたわけだが、その後何らかの政治責任を取ったという話は絶えて聞かない、即刻議員を辞職し引退すべきと著者は主張する。土井たか子は、横田めぐみさん拉致疑惑が浮上した97年5月には、「朝鮮民主主義人民共和国に対する食料援助は、少女拉致疑惑などとは切り離して人道的見地から促進すべきだ。」と言明した。誰も言論の責任を取ろうとしないこの国はどこへ行くのだろうか、とある書評氏は「日本を翻弄した発言を批判」と本書を紹介しつつ嘆いているが、私も同感である。