米中覇権競争と日本の対応                      

大阪倶楽部定例午餐会における片岡鉄哉氏(スタンフォード大学フーバー研究所、元上席研究員)の掲題の講演(副題は核の傘に頼る危険を考える)の要点は以下のとおり。
(1) 今首相官邸では、「集団的自衛権」の議論をしている。一つの具体例は「どこかの国(例えば中国)が、ミサイルを米国に向けて発射した時、日本はこれを撃ち落せるか」だが、その幼稚さに講演者はあきれる。もし撃ち落したら、その国は即座に日本に核攻撃を行うだろう。そしてその時米国は日本に代わってその国に直ちに核攻撃を行ってくれるだろうか 、答えはNOである。こんな事は自明であり、「米国の核の傘の下に居るという事で、これを期待する非核保有国・日本はどうしようもない馬鹿だ」、というのが片岡氏の言いたい事のようである。
(2) 日本は米国の核の傘の下にあると言うが、自国の国益の為なら米国はいつでも傘をはずす。1956年、アラブのナショナリズムに火を付けたエジプトのナセルは「スエズ運河の国有化」を宣言したが、その時国益を大幅に毀損される英仏はこれに反対しエジプトを攻撃した。これに対しソ連はエジプト支援に出たのだが、米国は英仏を応援するどころか両国を抑えにかかった。米国は核の傘はずしたのだ。そこで、いざやの時米国に頼る事は出来ないと悟り英・仏・イスラエルは独自に核開発を始めた、と片岡氏は言う。
(3) 1996年中国は台湾を脅かした事がある。台湾と沖縄の中間に向けてミサイルを発射したのだ。クリントン航空母艦を二隻送り強く牽制したことで中国は引き下がり、これを機に復讐を誓い軍備増強が始まった。2008年の台湾総統選挙で民進党が負けたら大変。いずれ米中の台湾争奪は不可避であり、米中紛争があればこの時中国は米国を叩かず、同盟国日本を狙う。日本が核武装をしていなければ、やられっぱなしであり大変危険である。
(4) と言う事で片岡氏は日本の核武装の必要性を説くわけだが、氏はVoice 2007年7月号に「ブッシュは日本核武装を認めた」を書いているそうなので、これを図書館から借りて来て、氏の論旨を要約してみる。?2003に北朝鮮の核問題を討議する六者協議が始まると、北朝鮮非核化に北京の協力を取り付けるべく、キッシンジャーは『北東アジアにおいて、日本・統一朝鮮・台湾などが核保有国にならないようにするから、北朝鮮核兵器計画を放棄するように中国はその影響力を駆使すべきである』という構想を発表した。?しかし一方片岡氏の推測では、ブッシュはこのような日朝並列非核化を取らず、2005年5月来日時に日本に核武装を要請した、と言う。また翌年北朝鮮がミサイル発射・核実験を行った頃、米国の著名メディアは「日本核武装?」という社説やコラムを出した、と付記している。?日本軽蔑も甚だしいキッシンジャー構想を小泉安倍は当然拒否するだろうが、一方日本核武装に対し直ぐに「うん」とも言えない。議論さえいけないという今の我国の風潮だが、片岡氏は非核三原則の本当の意味を次のように示す。『三原則を理由にして、日本は北朝鮮に人質を提供しているようなものだ。米国は北を攻撃できない、すれば北は日本を攻撃するのだから。日本は北朝鮮を守る盾になっているようなものだが、これを拒絶するには自分自身の核兵器が必要になる』。
(5) 日本がその気になればブッシュは日本の核保有を容認するだろうが、2009年1月民主党政権になればそうはいかない。米中の共同管理でキッシンジャー構想が実施されるだろうが、そうなるとこれは大変な議論を我国に呼び起こす事になりそうである。その意味では事務所費・郵政民営化凍結などにかかずらっている暇はないのであり、年金・天下り問題にもさっさとけりをつけて、教育再生集団的自衛権など仕掛かり中の案件を完成させ、安全保障・憲法改正など国の根幹に関わる問題について、戦後レジームからの脱却の視点で議論を深めてもらいたいものだ。