国際情勢の変動と日本の進路         

恒例の大阪倶楽部定例午餐会で京大教授中西輝政氏の掲題の講演があった。その要旨を記す。
1) 安倍さんは教育基本法の改正と防衛庁の省への格上げを実現させ、永年の懸案をあっと言う間に解決した。その後、集団的自衛権の行使可能化をリードしたり、憲法改正の前提となる国民投票法を通過させたり、ちょっとやり過ぎだなと中西氏は危惧したそうだが、案の定まず朝日新聞を始めとするメディアを敵に回してしまい、更に諸学会・霞ヶ関(法制局)の大反対にもあって、身動きが取れない状況に陥ってしまった。今憲法を争点にしても早すぎて国民はついて行けない、メディアもまだまだ左翼が牛耳っている。将来が期待出来る政治家なので、ここは一度引いて再登場を狙うべし、というのが氏のアドバイスである。
2) 安倍内閣の支持率が急減し回復しない理由が他に二つある、という。一つは主張のブレであり、例えば質問に答えて「岸信介に戦争責任はある」と言ってしまった事だし、靖国参拝に対する曖昧さもその一つだという。もう一つは人事の失敗だそうだ。後見人と言われている森元総理などの意見を入れて、自民党の古いイメージの人を内閣に何人か入れてしまった事で、これについては7月27日の産経新聞紙上に櫻井よしこ氏も「有力なアドバイザーを持たない安倍さんの「人事力」不足が閣僚のスキャンダルなどの些末な問題を引き起こし、本来評価されるべき政策、法案を通して来た実績がつまらない形で帳消しにされている」と書いている。そして櫻井氏も「一度退陣し、強靭なる精神を身につけてから再チャレンジしたらいい」と言う。
3) 相手に失敗させる、というのも政党政治の大事なテクニックであり、その成功例が吉田茂である、という。第一次吉田内閣は昭和21年5月22日に成立したが、昭和22年4月25日の衆院選挙で日本社会党が143議席を獲得して第一党になったので、吉田は潔く退陣した。日本社会党民主党国民協同党と連立内閣を組織したが、保守との連立政権のため閣内の意見がまとまらず、経済がどん底だった事もあったし、政治も外交もメチャクチャで、目立った成果を挙げる事なく片山首相は辞任した。昭和23年10月15日に第2次吉田内閣が成立し、翌年1月の衆院選挙では日本社会党が大敗、以降昭和29年12月10日まで長期に亘って吉田内閣が続いた。
4) 国際政治の現状はどうか。(a)米国が北朝鮮に擦り寄っている。(b)2月に韓国大統領選挙がある。野党も左翼に支えられた現与党と同じような事言っている。(c)台湾の立法院選挙が年末にあり、翌年3月には総統選挙がある。(d)スーダンダルフール大虐殺を支えている中国に対する反発は欧米に強い。中国は善処するといいながら逃げている。(e)EUの統合はこれ以上進まないだろう。メルケルのドイツ・サルコジのフランスいずれも理念より現実重視。(f)来年11月の米国大統領選挙が大きな分かれ目。依然大国であるが、米国の国力は低下している。
5) 結論だが、「米国一極だと思っていたが、イラクなどでしくじった米国を横目で見ながら、EU・中露も出て来た。そこで序列は、米国に続き諸大国(昔で言う列強)が居て、第三列目に日本という事になるのか? 今まで通り、米国の影に隠れているなら、三流国だ。もしそうなら憲法改正など考えなくていい。」と中西氏は突き放す。国際情勢の変動を冷静に見て日本の進路をしっかりと決めよう、と言うのが中西教授の言わんとするところである。
同じような警鐘を鳴らしているのがハドソン研究所主席研究員日高義樹氏であり、最新刊の「アメリカの新国家戦略が日本を襲う」(徳間書房)で、「アメリカの戦略が変わった、アメリカの極東戦略が終焉した、アメリ海兵隊アメリカ本土に戻る、冷戦が終わって十数年アメリカはアメリカを守る事だけを考えている、親(アメリカ)の庇護をあてにせず日本は自らの力で自らを守らなくてはならない、……」などと訴えている。世界はすべて国益で動いているわけで、日本も核兵器の保持も含めてタブーなく国益を考えた政策推進に取り組まなくてはならない、と私も思う。