日中接近が最重要?               

少々古いが昨年10月29日付産経新聞の「江主席発言は非礼な言辞」と題する主張の要点は次の通りである。「APECを機とする日中首脳会談で、江主席はわずか45分の間に小泉首相靖国神社参拝への抗議と参拝中止の要求を三度も執拗に繰り返した。(中略)。中国側の不当な干渉にピリオドを打つためには、今やはっきりと中国側の要求の理不尽さを指摘し、反論すべき時だろう。同じく歴史の関連では中国側の誇大な「日本の侵略と虐殺」の展示や教育の偏りに抗議すべきでもある。」 これは国民の過半数の心情だと思うが、当の小泉首相は1月に参拝して今年はこれで終わりとかなり弱気の発言をしている。
  この問題は金庫に入ってしまって今年は出て来ないのかと思っていたところ、何の事はない、先方から思わぬシグナルが送られて来た(と私は感じている)。6月13・14日の産経新聞によると、今年4月・6月に発行された中国の隔月刊評論誌「戦略と管理」に、胡錦濤政権に影響力を持つと言われる中国人民大学国際関係学院の時殷弘(じいんこう)教授が、「中日接近と外交革命」・「中国の外部困難と・・・」の二つの論文を発表している、と伝え、論文内容を紹介している。結論は次の「対日関係改善5項目」である。
(1) 日本の対中侵略については、日本側に重大な後退がない限り、これまで日本政府が公にして来た反省と謝罪で満足する事。すなわち歴史問題紛争を収束させる事。
(2) 日本の中国への輸出と投資が大幅増加するよう計らう事。改革開放以来、日本が行なった大量の対中経済援助に対し、最高指導者が感謝の意を表明する事。
(3) 日本の軍事力拡充と役割変化について語るには節度を持ち、いたずらな憂慮表明などをしない事。中米日間の軍事面の相互信頼のシステムを積極的に構築する事。
(4) 東アジアの諸問題への日本の参加を歓迎し、大国の協調・協力の原則で東アジアの政治経済における中日関係を処理する事。東京・北京の主導権争いを防ぐ事。
(5) 国連安全保障理事会改革では、日本の常任理事国入りを積極的に支持する事。
  論文の導入部では「中国の対日非難と要求/中国公衆の中の嫌日反日世論/両国間の貿易摩擦と領土紛争/中国人の不法入国/在日中国人の犯罪や地下組織なども要因となって対中諸問題ではタカ派が支持を受けている」という英誌エコノミストの記事を引用し、中日間に相互嫌悪と敵意が急速に増大している事を憂い対日関係大幅改善の必要性を説いている。昨年11月には党機関紙「人民日報」の評論員が同じく「戦略と管理」に「対日関係の新思考(副題:中日民間の憂い)」を発表、中国側の歴史への過剰なこだわりや日本の現実への曲解などに立った中国内の反日現象を批判し、中日関係の改善を訴えて反響を呼んだと言うが、いずれの論文も新政権が政策転換を始めつつある事を内外に示すサインと思われる。
  やはり対話と圧力が必要な事がここでも期せずして証明されそうなのだが、圧力ゼロで平身低頭して謝罪謝罪で来た一部の政治家・官僚・メディアはこれからどうするのだろうか。地道にしかし断固として国の誇りを失わずに来た人々に道を譲って下さい。