呪縛を解き放とう               

  「骨抜きにされた日本人」(副題:検閲・自虐・そして迎合の戦後史)という衝撃的な書名の本が2002年にPHP研究所から刊行されている事を知り、阪急梅田の紀伊国屋書店で探したが見つからず、新刊なのに変だなと思いながら手続きをして取り寄せてもらった。著者は岡本幸治氏、S.35京大法卒、三井物産を経て京産大・大府大・J.ネルー大・愛媛大・大阪国際大各教授、現在近畿福祉大学教授。はじめに、をまず読むと「21世紀の日本のあるべき目標に向かって前進する前に、まず出発点に立ち戻って、戦後日本の基本構造を確認すると共に占領下で活躍した知識人(宮沢俊義横田喜三郎丸山真男ら)を批判的に検討する。日本政治がいっこうに良くならないのはいわゆる五十五年体制の問題ではなく、そのルーツである四十五年体制とその精神構造の抱える問題に原因がある事を認識し、これを克服しない限り真の日本の再生は無い。」とある。以下要点を転記する。
  1)進歩的文化人の後遺症 :戦後の日本で論壇ジャーナリズムを支配した進歩的文化人マルクス主義自由主義左派によって成り立っており、初期占領政策を推進したGHQ若手を核とする容共的自由主義者らと見事に対応していた。もちろん彼らがマスコミに闊歩した幸せな時代はすでに去っているが、その後遺症は戦後日本を長らく今日迄拘束して来ている。例えば日本の伝統・政治・国家そのものに対する否定的嘲笑的態度、近代的西欧的なものに対するコンプレックス、社会主義に対する好意的評価や礼賛などだ。 
  2)教育改悪の後遺症 :日本人の精神的武装解除という緊急必須の要請に対し放送メディアの管理は極めて重要で精神の改造迄目論むものであった。教育に関するGHQの指令は教育制度・教職追放令・神道指令など次々と出されたが、日本文化・宗教についてまともな知識なしにひたすら否定に励んだ側面のある事は否定できない。軍国主義超国家主義を裁こうとして独立心・自立心の基になる正当な愛国心迄も奪い去った結果は、単純な黒白史観による日本史の断罪と共に今日迄日本の若者に大きな後遺症を残している。
  3)相反する二つの占領政策の後遺症 :初期占領政策の究極目的は日本の弱体化であった。それは日本近代の全面否定を象徴する強引な「東京裁判」と米国に従順な日本の建設を目指す「新憲法の制定」によって達成された。冷戦体制下の後期占領政策警察予備隊の創設に始まる再軍備であり日米安保条約の締結であった。いわゆる革新派は初期占領政策金科玉条とし、いわゆる保守は後期占領政策にひしとすがって倦むところが無い。いずれにしても従順な新国民を創出したという点で米国の占領政策は大成功だった。
  「今日の我国の根無し草的精神或いは自信喪失して漂泊する魂の由来を尋ねれば、その基本構造は敗戦直後の占領政策によって作られたと言って間違いないし、それらを克服する事が新たな日本の出発に不可欠である。」というのが、著者の結論である。占領時代の対日施策の不都合な部分は一日も早く是正さるべきであり、遅きに失しているが実行に移すべく国民一人ひとりが立ち上がらなくてはならない、というのが私の結論である。