病むアメリカ、滅びゆく西洋            

掲題は、アメリカでは知らない人のない保守派の大物パトリック・ブキャナンの著書The DEATH of the WEST [How Dying Populations and Immigrant Invasions Imperil Our Country and Civilization ]の邦訳書名(監訳者:宮崎哲弥)である。 目次や小見出しを拾い上げると、死に絶えるヨーロッパ、 英国で白人が少数化する日、日本の命運はパラサイトシングルの手に、跳梁するフェミニズム、 道徳心の崩壊、死にかける守旧派、歪められた平等思想、はたして国家とは何か、文化戦争、大量移民が西洋屋敷に住む日、非キリスト教化されるアメリカ、 怯える多数派、などが目に付き、それだけでも本書の内容がおぼろげながら想定される。  
  線を引いた個所をいくつか転記すると、?夫も妻も子供も家族の責任から開放してやる事によってヨーロッパの社会主義者達は家族の必要性というものを排除してきた、?日本における少子化の理由は親と同居して仕事に生きるパラサイト(寄生)シングルと呼ばれる女性達にある、?フェミニストは口を開けば結婚を奴隷か売春に喩えたがる、?ポルトガル・スペイン・フランス・イタリア・ギリシャどの国も軒並み人口が急減しているのに対し海を挟んだモロッコ・アルジェリア・チュニジア・リビア・エジプトは今後二十五年で七千三百万人も増える、?ロシアほど破滅的少子化に見舞われている国はない、世界中でイスラムが勢力を盛り返している、?栄華を極めた現代文明圏(西洋)も過去の不満にくすぶる近隣窮乏国に囲まれている、?アメリカはメキシコが抱えきれない莫大な労働力の捌け口となってしまった、?国家分裂のリスクを背負ってまで移民を受け入れる益はどこにあるのか、?カリフォルニア大バークレイ校は「コロンブスの日」を「先住民族の日」に改名した、?懐かしのヴァージニアという州歌は歌詞に黒んぼという語が含まれるとの理由で廃止になった、?強大な軍勢を誇ったヨーロッパの国々が今や自国の防衛軍さえ満足に育てようとしない、?黒人指導者を叱るジャーナリストはほぼ皆無で白人男性は常に逆差別の被害者だ、などなど。
  監訳者は以下のようにまとめる。「ブキャナンの立場は明確である。 西洋文化は今や衰亡の危機に瀕している。欧米先進諸国における出生率破局的落ち込み、急激な高齢化と移民の増加によって、世界秩序を構成して来た西洋主導の国民国家システムは崩壊する。 なんとなれば、人口減少と文化混淆の激浪が、今まで国を国たらしめて来た文化的アイデンティティを粉々に打ち砕いてしまうからだ。 彼の予測が正しければ二〇五〇年には西洋文明は死滅する事になる。 返す刀でブキャナンはこのような状況を招来した左派、リベラル派陣営とそのカルチュラルなシンパサイザーを徹底的に批判する。 具体的に俎上に上げられるのはフェミニストであり、フランクフルト学派であり、環境保護派であり、 多文化主義者であり、性的リベラリストである。 ・・・・・」
  アメリカ社会に根付いたこのような変革の根源をたどってゆくとマルクス主義学派の牙城であるフランクフルト学派に行きつくと彼は言う。その芽は一九二三年、フランクフルト大学においてルカーチとドイツ共産党員が旗揚げした「マルクス思想研究所」だそうだ。 日本はもちろんこの没落する西洋の仲間に組み入れられており、我国の現状も著者が警告する通りなのだが、我国の場合その犯人は誰なのだろうか。 これはしっかり調べてみたいテーマではある。