フランクフルト学派                

  月刊誌「正論」(平成15年8月号)に「日本のメディアを支配する“隠れマルクス主義フランクフルト学派とは」と題する東北大教授田中英道氏の興味深い啓蒙記事がある。TVの各チャンネルでニュース解説などを勤めているキャスター達の何人かは隠れマルキストではないかと日頃から疑問に思っていたし、記事の筆者は大著「国民の芸術」の著者であって西尾幹二氏の後を継いで「新しい歴史教科書をつくる会」の会長になった田中氏だったから、発刊と同時に赤鉛筆を持って一行一行読んで見た。 
  フランクフルト学派などと言っても、(1)日本では馴染みがないが西欧におけるこのマルクス主義学派の重要性はつとに指摘されている、(2)注目すべきはこの思想が政党政治家達や労働組合マルクス主義ではなく知識人のマルクス主義である、(3)今や人口の多数を占める普通の中流階級の変革を目指している思想である、という事だそうであり、体制の内部に入り、その中から「体制否定」の理論を繰り返す事によって、社会の内部崩壊をもたらそうという理論と言ってよいと言う。 
日本にとってもこの学派の影響は大きいそうだ。 (1)特に一九六〇年代から七〇年代に学生であった世代はこの学派の影響下にあったと言ってよい、(2)今日の反戦運動・差別撤回・フェミニズムジェンダー(性差)などの事もすべてこの学派から出た理論によっている、そうである。 ところが、アメリカに移ったフランクフルト学派の影響がそれより古くアメリカ政府の中にも入り込んでおり、それが既に日本の戦後の憲法作成にも影響を与えた、と言うのだから日本にとって問題はかなり深刻である、と言う。アメリカには政治的な意味では共産主義の理論は根付かなかったが、(1)このフランクフルト学派の存在によってその思想が流布したのであった、(2)そしてその中には日本の憲法草案づくりに参加した若手のハーバード大学の法律家が居たとしても不思議でない、(3)さらに日本の占領下において日本人の表現活動を監視し検閲した人々もこの派の影響下にあったし日本の過去を否定するのに懸命になった事はよく知られている、と言う。
フランクフルト学派の代表的論者マルクーゼは、「右翼に対する不寛容・左翼に対する寛容」を要求し、ベトナム戦争では戦争反対を叫びベトナムの旗を振る過激派を支持した。 中産階級が多数を占める民主主義国家では労働者階級の革命が起こる筈がないので、彼らを何とか革命の側に引きずり込む為には彼らの安定した考えを否定し不安にさせなければならない、というのがこの学派の戦略だそうだ。 すなわちこの思想は内部からの解体を進める事であり、こうした思想が大学時代に教えられるとその破壊的な傾向が大学に残った学者にも報道機関や出版社に就職しているジャーナリストにも受け継がれて行く、官庁に入った官僚は当然それに即した法律・規則を作って行くのであり、日本が内部から社会主義化して行ったのもよく理解出来る、と田中氏はいう。そういう事だったかも知れないな、と思う一方、なかなかの難問で一筋縄には行かないなと思う。