円高阻止のドル買いは不適切

  我家で取っている日経新聞の経済教室欄に最近「日本経済と円相場」が取りあげられ、同じく産経新聞の正論欄に「円安は成長に寄与、の神話を排す」が掲載されていた。 まず円高(ドル安)になる理由だが「表向きは高成長が復活した米国経済だが、しかし世界のマネーは米国を嫌い(GDP5%に達する双子の赤字とテロリスク不安から来る米ドル資産の分散化)、日本・中国を評価し投資を始めた」事にあるそうだ。 この円高を阻止する為、この半年の間、12兆円を超えるドル買いを実施し、外貨準備は約1300億ドルも増加して外貨準備高は6200億ドルになったと言う。この背景には「円高は景気にマイナス」との誤った認識があるからだと言い、今やドル買いはやめなければならないと言うのが円高容認論者の主張で、もっと言えば、下記の三つの理由で円高国益に適うと言うのである。 (1)円高のマイナス面は言われる程大きくなく,最近では10%の円高で現地価格を10%値上げしても、輸出数量の減少は2%以内だし、海外の成長率の向上で十分吸収可能。(2)円高の打撃を受ける輸出の規模はサービスを含めても年間40兆円足らずなのに対し、円高で輸入コストが下がり実質購買力の上昇と言う恩恵を受けるのは年間400兆円を超える国内所得だけでなく、1400兆円近い個人の金融資産も同様。 (3)円高は、世界の資金が日本の生産や投資に使ってもらおうと集まって来る事であり、又国内の余剰資金が海外に漏れずにより多く国内の生産・投資に回る事を意味し、日本経済の活性化に繋がる。
  もちろん為替相場の安定は望ましい事ではあるが、介入コストや安定の持続性も考慮されなければならないと論旨は続く。まず外貨資産保有の変動コストだが、過去六ヶ月の短期採算を米ドルの下落幅を10円として概算すると6兆3000億円、追加介入額だけでも1兆3000億円と言う巨大な[資産の目減り]が出る勘定だそうな。 次に為替相場の持続性だが、介入による無理な相場維持はある日突然の大きな相場変動リスクを増大させる、また不適切な相場は日本の活性化に不可欠な構造改革を遅らせる事にも繋がると言う。 巨額のドル買いは後世に大きな憂いを残す、と言うわけだ。 むしろ円高を素直に受け入れるべきで、内需中心に成長率が高まればおのずと輸入が増えて経常黒字が縮小し、国内投資家も海外投資のリスク余力が高まり、いずれ円高にも歯止めがかかるという主張である。 
  天然資源に恵まれない我国が折角手にした資源を輸出に回し、その結果手に入れた外貨資産が目減りしている、老齢化が急速に進む中で、この事実は由々しき事でありこの悪循環は是非断ち切らなければならない、輸出に使われている資源を国内の豊かな生活にシフトさせる事が正に構造改革なのだ、と言うのが結論である。 私もそうだ!と共感するのだが、しかし、これに対し「円安を進め資産デフレを脱却せよ、ドル買い介入をもっとやれ」と言う正反対の意見もあり、エコノミストなんていい加減な人種と思うし、経済学自体がいい加減なものだと思ったりもする。 いずれにしても専門家同志で、それぞれの主張の前提を明確にして議論してもらい、素人にも分かり易く解説してもらいたいものだ。