占領時代の呪縛                   

現在の我国社会の国家観の無さ、自虐史観充満の情けなさはどこから来るのかを探るべく、近現代史を読み直そうと一念発起してから一年半が経ちましたが、参考になる教科書は以下のとおりでした。通史としては、中央公論新社「日本の近代」の第一巻から六巻まで(開国維新・明治国家の建設・明治国家の完成・国際化の中の帝国日本・政党から軍部へ・戦争占領講和)とPHPの岡崎久彦五巻本(陸奥宗光とその時代・小村寿太郎と・・幣原喜重郎と・・重光東郷と・・吉田茂と・・)がバランスのいい名著と言われていますし、そう思います。大東亜戦争については、中村粲著「大東亜戦争への道」と林房雄著「大東亜戦争肯定論」がいずれも重厚の力作です。東京裁判は「世界がさばく東京裁判」(ジュピター出版)と中公文庫清瀬一郎著「東京裁判」が読みやすいでしょう。
  これらから得た私の感想は、(1)アジアが次々と植民地化された中で国を守った幕末から明治の日本人は本当に立派だったと諸手を挙げて拍手したい、(2)昭和6年(満州事変)から昭和20年の間、陸軍が権力を握って近代日本が変調を来たしたのは悔やみきれない痛恨事、(3)天皇制護持を貫き通すべく、取引として、GHQ社会主義シンパの官僚に他の全てを委ねたのはやむなしとして、(4)独立後すぐに憲法改正など占領政策からの脱出を図るべきにも拘わらず左翼の闊歩を許してしまったのが、如何にも残念、というものです。
  そこで占領時代に焦点を絞って復習を更に進めなくてはならないわけですが、岡崎氏に依れば、占領時代の分析はやっと平成に入ってから始まった(それ以前は単なる記録)ばかりとの事であり、以下の書物を挙げておられる。
    (1)江藤惇「閉ざされた言語空間」文春文庫 1994
    (2)五百旗頭真「占領期—首相たちの新日本」読売新聞社 1997
    (3)ジョン・ダワ―「敗北を抱きしめて」岩波書店 1999
(4)保阪正康吉田茂という逆説」中央公論新社 2000(中公文庫もあり)
(4)は我々の幼年期から大学卒業頃までの政治状況を吉田茂を中心にまとめたものです。吉田の考えた敗戦後の日本の進路は、陸軍を中心とした野卑な勢力によって破壊された国家像を本来の姿に正すという意味での[皇国の再建]でしたが、米政府の対日方針は徹底した[非軍事化と民主化]であり、大きな違いがあったわけです。特にGHQニューディーラー達の過激な考え方に警戒心を持ち、[国体を護持]させるべくあらゆる政治テクニックを駆使したとあります。吉田は連合国の最高司令官であるマッカーサーと連携して新生日本を作ったのではなく、彼を利用して、近代日本の--昭和陸軍が登場する以前の--歴史と連続性を持つ「再生日本」を作り上げようと試みたのである、とあります。
これはこれで成功したわけなのですが、現在のような政治・社会の液状化現象を思うにつけ、この社会が抱え込んでしまった歴史的病いと改めて向き合う事の重要性を一層痛感している、と言うのが著者の締めくくりの言葉であります。ご一読をお奨めします。