新しい時代の脅威と我国の安全保障          

帝京大学教授志方俊之氏による掲題の講演会の要旨は次の通り。 氏は'36生まれ、防衛大・京大卆、米陸軍工兵学校留学後米陸軍戦略大学国際研究員など40歳まで勉強し、その後陸上自衛隊に入り最後は北部方面総監となって'92退官、’94より現職。
我国の存立の条件は、「(1)外国が資源を供給してくれる、(2)長大なシーレーンを通過して持って来れる、(3)))その資源に付加価値をつけて競争力ある製品を作れる、(4)それを購入してくれる国が多い」事であり、これらが損なわれるのが我国にとっての脅威。まず(3)を片づけると、その為には、a次世代技術の開発への投資が十分か?、b勤勉な労働力確保の為の教育と雇用は大丈夫か?、c良好な社会治安は維持可能か?、などが必須だが、これらは我国自身で解決しなければならない自国責任課題である。 
これに対し(1)(2)(4)は世界各国との連携で確保出来る条件であり、我国の姿勢と行動を考えるに際し、「我国ほど世界の平和を必要とする国はない、我国だけが平和であっても十分でない、最大の脅威は国際社会における孤立」に留意しなくてはならない。我国が米国に依存しているものを挙げると「核抑止力・戦略的攻撃力・安全保障上必要な情報・軍事技術の基本部分・エネルギー輸送路の防護・食料と水(virtual water)」などであり、対等な同盟関係なら我国がなすべき事は多い。講師の主張は、「自国を危険に陥れない努力、それと同等程度に留意すべきは国際的責務を如何に果たすかが重要」である。
イラクでの自衛隊の人道復興支援(浄水給水・建設・医療)だが、新渡戸稲造の武士道五条件(武士は強くなくてはならない、自分から先に刀を抜いてはならない、弱きを助けなければならない、恩を着せてはならない、立ち去った後清々しい花の香りを残す)で活動している。殆ど報道されないが、ゴラン高原での自衛隊の駐在は9年になっており、イラクでの給水で乳幼児の死亡が十分の一になっている。(これでも直ちに引き揚げろと民主党は言うのか、と慨嘆) 自衛隊は50年で大変頼もしく、立派に育った、そうである。
さて我国防衛にとっての課題であるが、急ぐべきは防衛基本法の制定である。基本法とは国政の重要な分野について国の制度・政策・対策に関する基本方針を明示した法律で、現在約26の基本法(最近では少子化社会対策基本法)があるが、防衛基本法はないし、それ以前に、憲法に防衛とか有事などの言葉すら無い。防衛基本法で何を明示するかと言えば、例えば(1)軍隊は総理大臣の指揮で動く (2)外交・交渉などあらゆる手段で紛争を防ぐ (3)どうしようも無くなって国民の生命が危機にさらされる時初めて出動、などである。このような基本法が無い事はかえって危険であり、とんでもない事である。目前の我国の危機と言えば、北朝鮮イラク・テロの三つであるが、憲法の改正、防衛基本法制定などの国民的議論と早期の決着を望む、というのが講師の結論である。                            
テレビなどでの薄っぺらな議論はお粗末の限りである。自民・民主共に専門家の話に耳を傾け、現代史をよく勉強した上で内容の濃い水準の高い議論と提案を望みたい。