脳活動の画像計測法                             

(財)大河内記念会から日立製作所基礎研究所見学の案内をもらい、それは昨年度10件の大河内賞の中での最高賞の講演・見学会であったので、何をおいても出掛ける事とした。大河内記念賞「近赤外光を用いた脳活動の画像計測法[光トポグラフィの開発と実用化]」(代表研究者:工博牧敦氏)であるが、「従来から機能的核磁気撮影法(fMRI)や陽電子放射断層法(PET)があるが、これらは大型であり特別なシールド検査室を必要とするのに対し、本業績は、光ファイバー付のキャップを被験者は被るだけで、人間の大脳皮質の活動に伴う脳表全領域での血流量変化を同時に多点で計測し可視化出来、高速動画計測(10枚/秒)も達成出来た。ある波長帯の照射パワー・数mWの微弱な近赤外光を用いるだけなので安全であり、脳神経外科を始めとする様々な医療分野のみならず乳幼児の脳機能の研究にも活用され、その成果は教育分野へ展開する事が期待されている。2001年に製品発表、翌年保険の認可を受けた」との事である。
  日立基礎研は池袋から約50分の東武東上線・高坂駅で下車、車で西へ10分の埼玉県鳩山町にあって、地図で見ると高坂カントリーはじめ12のゴルフ場に囲まれているようで、写真のように建物もさることながら秩父連山が望まれる素晴らしい環境にある。説明によると、日立の研究開発本部には国内だけで6つの研究所があり、古い順に日立研(1034年)・中央研(1942年)・機械研(1966年)・生産技術研(1971年)・システム開発研(?)・基礎研(1985年)となっている。基礎研は場所は中研の中にあって80人でスタートしたが、1990年に現在の地に移り、現在は120人程度だそうだ。2003年からは、新事業に結びつくパラダイムシフトを起こす基礎となる研究を行なうべく、「人間・情報」「医療・バイオ」「環境・エネルギー」「ナノテクノロジー」の4分野に組織を組替え、陣容を強化している由。ミッションを一言で言えば、「新事業を創成する研究所」だ。
  さて本題の技術開発だが、生体組織(頭蓋骨も)に対する透過性の高い800nm(ナノメーター)近傍の二つの波長の近赤外光を、光ファイバーによって頭の十数ヶ所に導き頭内に発射する。光は頭蓋骨を透過して大脳皮質を照射するが、同時に頭蓋骨を透過してくる血液の色をファイバーが受光するという。その部分の脳が活発になると酸素が多くなり、ヘモグロビンが多くなって血液は赤くなる、その色を計測しているのだそうな。色は脳活動の程度を表わすのだろうし、同時に血流量にも比例しているのだろう。例えば、新生児に録音された日本語を聞かせた時と録音テープを逆回しで聞かせた時とでは、新生児の言語中枢の活動が違い、前者において活性、後者にて非活性が実証されている。その他感銘深い事例紹介があつたが、この光トポグラフィは、MIT Technology Review 誌においてAdvanced Brain  Imaging として2002年の革新的技術4件の一つに選出されたとの事。(他3件はマイクロソフト・GM・GE)さすが日立!と参加者全員が意を強くした。最近の新聞に「独創を拓く・知の群像」として企業の中にも基礎科学に貢献した研究者が少なくない、との紹介があったが、ノーベル賞候補を次々と輩出しているのが日立製作所だそうだ。大変心強い事である。