第四次世界大戦                      

丁度二年前にPHPから初版が出版された、日高義樹著『アメリカの世界戦略を知らない日本人――「イラク戦」後、時代はこう動く』の各章表題を列記すると、●イラク戦争が世界を変える ●日米安保の時代が終わる ●「次はお前の番だ、キム・ジョンイル」 ●当分北朝鮮と韓国は合併させない ●中国はブッシュ大統領に脅えている ●中国は怖くない ●ヨーロッパは終焉した ●ブッシュ政権はけた違いに強い ●ドルの立場を守るには日本円が必要だ ●日本の平和主義は敗れた、となっているのだが、1959年のNHK入局以来、ニューヨーク支局長・ワシントン支局長・アメリカ総局長を歴任し、退職後もハドソン研究所首席研究員として活躍する知米派ジャーナリストの第一人者としての面目躍如の内容である。特に最後の第十章が重要と思われるので、何ヶ所かを抜粋し論旨を要約する。(本書執筆はイラク戦争開始直前である。)
(1)第二次大戦後、日本人は平和主義を標榜して世界中をビジネスの為だけに走り回った。この日本のやり方は、米ソの力で世界が安定していた冷戦の時代には日本にとって極めて有利だった。ところがそうした平和の時代が終わった今、世界の人々は、テロリストから身を守り世界をより安全な場所にする為に、軍事的な努力が必要だと考え始めている。軍事力も政治力も無しに世界中を走り回って物を売る時代は終わったと、日本人は自覚すべきだ。
(2)今や付き合いが長くなったH.キッシンジャーがよく「日本人の民族としてのDNAはとびきり優れている。明治維新という大事業を成就したり、戦後の荒廃から世界一二の経済を作り出した。並大抵のことではない。」と言う。戦後の平和主義は日本人の本来的DNAではなく、むしろ日本人は戦う民族なのだ。
(3)にも拘わらず1946年以降、すべてを超越して平和主義者・戦わない民族集団になってしまった背景には大きな理由がある。(a)まず第二次大戦の損害が原爆投下とかソ連軍の突然の侵攻などあまりにも大きく、加えて戦後判明した事例からの、戦争指導者に対する不信も強く、戦いはばからしいと多くの国民が身にしみて感じてしまった。(b)神風特攻隊も、日本人を燃え尽きさせ再び戦う気を失わせてしまった理由の一つだ。
(4)米国とソ連を頂点として二十世紀の後半四十年に渡って続けられた冷戦を第三次世界大戦として、その冷戦が1989年ベルリンの崩壊と共に終わりを告げたが、それから十三年経って第四次世界大戦が始まろうとしている。それは米国を始めとする先進国とテロリストの国家や組織との戦いである。
(5)ブッシュ政権は2002から2003年にかけてイラクと戦争を行い、第四次世界大戦の幕を切って落とすだろう。その後サウジ・イランの政権を過激派から穏健派に代え、中東全体を米国のものにする政治工作を行なう。北朝鮮に対する戦争はブッシュ再選後になろう。
(6)第四次世界大戦の終幕は米国と中国との対立である。この対立は長く冷たいものになるかも知れないし、中国共産党が壊滅するか変質してしまう可能性がある。ブッシュ政権の指導者は2025年ぐらいまでが一つのメドだと考えている。
中国の共産主義と米国が長い間共存する事は不可能だ。向こう数十年のうちには両者は必ず衝突する。我々は日本の将来を考える時、この問題を十分分析し洞察する必要がある。平和主義の名の下に妥協しているだけでは、日本の存在さえ難しくなる。戦う姿勢を明確にして国際社会と取り組まなくてはならなくなっているのは、今や明らかである。それ以外に我が国の存在や将来は在り得ないという事を強く自覚しなければならないと著者は言う。私もほぼ同意見である。