熊野古道小辺路を歩く                     

 「紀伊山地の霊場と参詣道」(熊野古道)が昨年7月世界遺産に登録された事もあって一度歩いてみなくてはと思っていたが、暖かくもなったし、しばらく運動不足気味でもあったので、急遽一泊二日で敢行する事になった。土曜日の朝6:00に宝塚を発ち、高速道路を乗り継いだ後、奈良県五條市から国道168号を延々と、「谷瀬の吊橋」に立ち寄ったりしながら、十津川沿いに南下して、奈良県最南端十津川温泉の旅館に到着したのは10:20、荷物を置き、旅館のお兄さんに登山口まで送ってもらって、古道を歩き始めたのが11:05だった。熊野本宮に通ずる古道としては田辺からの中辺路(ナカヘチ)・高野山からの小辺路(コヘチ)・伊勢からの伊勢路吉野山からの大峰奥駈道(オクガケミチ)の四つがあるが、今回は紀伊半島の山岳地帯をほぼ一直線に縦断する峠越えの全長約72kmの「小辺路」、そのほんの一部3.2kmを往復する計画だ。十津川温泉から頂上の果無峠(ハテナシ)まで行ってもいいのだが、特段展望があるわけでもないようなので、途中の観音堂までとする。それでも図にあるように標高差は700mもあり、我々にとっては立派な登山である。
最初から急な石畳の坂道だが直ぐに尾根上に数軒の果無集落、採って来たゼンマイを一本〃〃整理しているお婆さんとしばらく四方山話、縁側に置いてあった蕨一束を300円と交換させてもらう。集落の中にある世界遺産登録の記念碑の横を過ぎてまた森の中の参道を行くと、天水田跡・石垣が残る山口茶屋跡に出る。この水田はその昔茶屋の住人が雨水だけで耕作したのでそう呼ばれているそうだ。ここでの20分の昼食休憩後、再びきつい坂を登ると物置小屋程度の果無観音堂に着く、13:40。ここには水場があり、二本のホースからの勢いのいい冷たい清水を頭から被る。熊野側から果無峠を経て降りて来た中高年10人程度の一行があり、聞くと、三日間の予定で高野山までの小辺路完全縦走だそうな。我々は14:00に下山開始。参道にはいくつもの観音石仏が並べられていて微笑ましいのだが、途中で並んで写真を撮ってみた。最初の登山口に帰って来てしばらく林道を歩くと、去来の立派な句碑がある。「つづくりもはてなし坂や五月雨、〜大和紀伊のさかひ、はてなし坂にて往来の順礼とどめて奉加すすめければ料足つつみたる紙のはしに書き付け侍る」。つづくりとは、繕う事だそうで、言わば道普請、巡礼の人々からの寄付でこの古道が出来たようである。
 予定どおり4:30、吉乃屋に帰還、文字通り深山幽谷の秘境と言ってよく、山影を映したエメラルドグリーンのダム湖を眼前に露天風呂につかる。