ドイツ国防軍の犯罪           

 日本の戦後処理について、同じ敗戦国であるドイツとの比較がしばしば指摘される。韓国の盧武鉉大統領は「ドイツが如何に戦争の傷を癒し、克服するのに成功したか。それに引き換え、日本人は侵略戦争を正当化している」と語り、中国も日本には繰り返し「歴史への反省とそれに基づく行動」を求めて来るが、ドイツについては「平和発展の道を歩んでいる」と評価する。日経新聞今年5月8日朝刊には「ドイツ、敗戦から60年。ナチスの蛮行を忘れず」との見出しで、「ベルリン中心部にユダヤ人大虐殺の記念碑が近々完成する。極右の台頭などで記憶の風化も懸念される中、戦中世代も残虐行為への反省と平和への決意を語り伝えようと奮闘している」などと好意的な、中韓政府の発言を是とする意図を窺わせるような記事を掲載している。
 これに対し「それは根本的におかしい」と二三の識者が指摘しているが、しっかりと実証的に論じた報告書が出版されているのに最近気づき早速通読してみた。それは2001年7月発行の中公新書「戦争責任とは何か―清算されなかったドイツの過去」であり、著者は元読売新聞記者・木佐芳男氏だが、この問題に取り組む為退社独立してフリーとなり、膨大な資料と直接インタビューをまとめて本書が出来上がったと言う。以下にその要旨をまとめる。
 話のきっかけは第二次世界大戦終結から満五十年を迎えた1995年、左派系の民間シンクタンクが「絶滅戦争・国防軍の犯罪」という巡回展を企画し、十五の都市で開催したが、その主張は『1945年ナチスドイツが敗北すると直ちに、元の将軍たちは[クリーンな国防軍]――すなわちユダヤ人大虐殺はナチスの部隊がやったもので国防軍は手を染めなかった――という伝説を作り始めた。・・・・・そうした主張が今日まで世論を決定づけているが、50年後の今、この嘘と決別し大犯罪の真実を受け入れるべき時が来た」とある。神話作りの最初は西ドイツ初代首相アデナウアーの1952年議会演説で、その骨子は「・・・・・ドイツ軍人の誉れと偉大な功績は、過去数年の間に傷つけられはしたが、未だ生き続けており、更に生き続ける事を確信する」であり(我々日本人にとっては驚くべき発言)、これに議会は賛同して再軍備と徴兵制が復活したのだが、 国防軍総司令官兼ナチ党党首がヒトラーであり、その下に国防軍とナチ機構が存在したわけで、アデナウアーの時代に、国防軍の犯罪は問われず全てはナチ親衛隊のせいだとされたわけだ。
 大虐殺以外の戦争犯罪はどうか。1938年ヒトラーオーストリアを併合しその後チェコを獲得した。以降ポーランドを侵略した後フランス・ノルウェー迄軍事占領したわけで、大変な惨禍を欧州各地にもたらしたのだが、このようなドイツの過去について今までドイツは何の謝罪もしていないというのが著者の結論である。これについてある博物館局長の話を紹介している。「ドイツ人は、?平和に対する罪(侵略戦争)、?通例の戦争犯罪、?人道に対する罪(ユダヤ人大虐殺)と言う三つの大罪にまず向き合わねばならなかった。?については自分がやったのではないという説明を何とか認めてもらって、しかしドイツの名においてナチスがやってしまった事なので同じドイツ人として賠償責任は持つ、という言い方である。生き続ける為に自分に嘘をついているのだ。」というのだ。嘘ではあっても了解されつつある?に対し、未完の??が浮かび上がって来る、そしてドイツはこれからこれに立ち向かって行かねばならないと著者は言う。こんなドイツを中韓が実情を知らずに礼賛するのはやむなしとして、日本のメディアが片棒担ぐのは一体どういう訳か。理解に苦しむ。それにしてもドイツ人のしたたかさに驚嘆、日本人のお人好しには落胆だ。