小泉圧勝と自民退潮                    

選挙結果についての評論の中から二件を紹介したい。一つは大阪倶楽部午餐会での政治ジャーナリスト河崎曽一郎氏の「小泉圧勝、政局と民意」と題する講演。(1)言わば基礎票としては、自民200、公明30、民主140、社共20、その他10、残りが80で衆院定員480となる。残りが自公に行くか民主に行くかであり、今回は自民に行って自民は280+αで296となった。(2)過去の例では「改造の度に内閣は弱くなる」のだが、内閣支持率は50〜60%ある。今後安倍官房長官がポイントで、日本丸の宣伝マンとして堂々としてスポークスマンの役を果たせば、しばらく支持率は続こう。(3)外交は内政の延長(国家として何をしたいか、どんな国家にしたいか、があって初めて外交のスタンスが定まる)という意味では、麻生外務大臣は適任。小泉・安倍・麻生は腹が座っていて、靖国はもはや解決済みだ。(4)テロ・イラク自衛隊憲法という線が引き続き内閣のテーマだが、万一死者が出たら「小泉自ら迎えに行き羽田から武道館に直行して国葬的な葬儀を行う」事が危機管理として決まっており、小泉は簡単にイラクから撤退しない。(5)しかしながら、平成の大合併で地方議員はいずれ1/3になる。郵政民営化などで自民の地方組織の液状化が進み、地方では内閣支持率が低い。それが今後どうなって行くか。というような話だった。
 もう一つは、正論11月号中西輝政教授の「大勝が内包する自民退潮の趨勢と保守再生の好機」である。同じく大勝は「風」(小泉流ポピュリズム)に乗っただけとの評価であり、次回には野党が乗る可能性も十分あると。 経済の構造改革(財政再建)による日本経済の活性化は必須なのでこれを推進しつつ、本来の保守の使命を果たさなくてはいずれ自民は退潮だと著者は警告する。「保守」とは第一に「国家」というものの只ならぬ重要性を見据える事であり、第二に歴史と伝統を重視する姿勢であり、第三に自然・宗教・先祖への畏敬と感謝の人間観、だ。この視点で現実の課題を挙げると、(1)安全保障(中国の軍事力が現実の脅威)、(2)歴史認識(歴史観を巡る問題が日本政治の根幹)、(3)少子化(国民の価値観・国家観にリンク)、(4)教育、などである。そういう意味での正統保守政治家が今回の落選組に多いのは残念だが、一方で歴史教科書・拉致・領土・人権擁護法案などの諸問題を通じて地方議員の国家意識がはっきりと芽吹いて来ていると。そして結論は「国家問題の解決の為に不可避である政界大再編のシナリオをどう描いて、憲法改正や教育改革を中心とする日本の当面の国家問題を真にリードする勢力をどうまとめていくのか。小泉自民党ポピュリズムの時代を越える、真の日本の保守の向かうべき方向がそこにあるし、そしてそこにしかないのである。今回の総選挙で、若者層が雪崩を打って小泉自民党に投票した背景には、この国の行く末に対する未熟ではあるけれども真剣な関心があった事は決して忘れてはならないだろう。それが今、一つの希望である。」となっている。
 政官業のトライアングルで形成された既得権益にそれぞれがしがみついて、いつのまにか国・地方の財政赤字が770兆円に膨らんでしまい、これはまずい!となって小泉改革がそれなりに進展しているのは、そうでなかった場合(大きな政府志向)に比べれば遥かに良かったと私は考えるが、さてこのままでいいのかと思案すれば、もちろんNoである。ハンチントンを挙げるまでもなく、中国文明から西暦100〜400年の時期に派生したとしても、日本文明は世界七大文明の一つであり、これを引き継いで発展させて行くのは現代日本の任務と考えれば、経済の構造改革は単に一手段であって、国家・歴史伝統・自然宗教に確固たる見識とリーダーシップを持った保守党の出現が期待されるのであり、それには政界大再編などより大きな改革が必要なのである。