ゴムタイヤ・一本レール式路面交通システム  

 新日鐵堺製鉄所内に約300mの試験線路が出来上がり、今年4月にフランスから2連接3両編成の車両が輸入され、6月から2008年3月迄、安全性評価試験が続行されるそうだが、その新交通システムについての見学会があったので参加して来た。車社会が進んだ欧米では道路渋滞による都市機能低下などを始めとする諸問題の解決の為、路面電車の再評価が行われ、新しい都市交通システムとしてイメージチェンジを図るべく考えられたのが、LRT(Light Rail Transit)であり、LRV(Light Rail Vehicle)である。総合的な交通システムとしてのLRTの導入は1978年のカナダ・エドモントンが最初であり、その後自動車に起因する都市問題に悩む世界中の都市へ波及して行き、現在までの開業都市は世界20ヶ国56都市となっているそうだ。1997年、フランスの都市交通システム委員会が三つの新公共交通システム(大別では二つ)を提案した。一つは「一本レールガイド式タイヤ駆動路面電車」であり、ガイドレールの上を一つの鉄車輪が跨いでガイドする方式のTVR(Bombardier社製)とガイドレールを二つの車輪が挟み込む形のTranslohr(Lohr社製)とがある。両方式共フランス国内で試験が続けられているようだ。もう一つは「光学ガイド式タイヤ駆動路面電車」(CiViS)であり、レールを用いた機械的ガイドに依らず、路上に印されたラインを光学センサーで読み取りステアリング操作を行うもので、トロリーバスに近い。我が国では旧態依然の路面電車が19都市で運営されているが、ドイツの技術による低床型車両の導入は熊本・広島・名古屋・鹿児島・伊予・土佐・函館・岡山で進んでいるようであり、独自の技術開発として、トヨタの磁気案内式・日本オーチスエレベータ社の空気浮上リニアモータ式などが、そして要素技術としても左右輪を結ぶ車軸を排すホイールインモータなどが進められていると言う。
 さて堺製鉄所内の「堺浜試験線」は前述のTranslohrであり、三井物産を中心に東芝東急車輛など8社のプロジェクトで、車両諸元は床面高さ250mm、最高速度70km/h、最小曲線半径10.5m、最急勾配13%となっている。見学参加者40人が乗車して何往復かしたが、大変静かで快適な車両と見受けられた。Lohr社の若い技術者が一人いたので聞いてみると、現在受注済みは伊のパドバ・ラキーラ・ベネチア、仏のクレルモフェラン、中国の天津の各市であり、伊のパドバは全長15kmで現在テスト中、来年秋開業との事。 
このような路面電車の我が国への導入だが、簡単には行かないのではないか、との意見が多い。もともとトロリーバスのインフラが転用出来た都市とか、坂が多く勾配に強いゴムタイヤの優位性があった所で採用が進んでいるのだが、更に言えば連接バスの経験も必要だ。これらの実績の少ない日本で直ぐに受け入れられるかどうか、私も少々首を捻らざるを得なかったが、三井物産さんがやる事だから、成算あっての事に違いない。