2月7日は北方領土の日          

 ある感慨をもって切り抜いてあった昨年2月7日の産経新聞には、『7日は(択捉島までを日本領土と確認し合った)日露通好条約の締結150年記念日である。また今年は(未画定だった樺太をロシア領とし千島列島は日本領とした)樺太・千島交換条約締結130年、日露戦争の勝利で南樺太獲得を定めたポーツマス条約締結から100年、第二次世界大戦の敗北で南樺太返還はやむなしとしても、千島列島を不法にも奪取され、ましてや北方四島まで占拠されてから60年である。…日本外交は今こそ結束を固めて四島返還への長期戦略構築に着手し、返還要求の歴史的正当性を国内外に辛抱強く訴え続けて行くほかない。対露外交の要諦は「あせらず、あわてず、あきらめず」である』とある。今年もその日がやって来て、同じく産経新聞は「国際化で対露包囲網築け」と題して『…ブッシュ米大統領は昨年5月ラトビアで「ヤルタ協定は歴史上最大の過ちだった」と暗にソ連の対日参戦などを批判した。…領土を国際化し、日本援軍の為の対露包囲網を構築し得る環境が整ったようにも見える。小泉首相はサミットでプーチン大統領に「四島返還無しに日露の戦後は終わらない」と真っ向から提議すべきだ』と主張しており、また読売新聞によれば「日本が当事者でないヤルタ協定が、あたかも日本に対して拘束力を持つかのような主張は、受け入れられない、と反論する文書を在日ロシア大使館を通じてロシア政府に伝えた」ともある。それなりに外務省も頑張ってはいるようだが、依然としてこの問題で前進が見られないのが現実だ。
 何とかならないものかと思案しつつ、昨年10月に出版された木村汎著「日露国境交渉史」(角川選書)を改めて読んで見る。終章「ゴルディアスの結び目の解き方」では北方領土問題を解決し得ない理由をいくつか挙げている。まず両国の外交上の優先順位表で下位にあったし、今もある事だ。日本にとって大きな四島(北海道・本州・四国・九州)の安全確保の方が小さな四島の奪還よりも遥かに重要だった。内政重視という要因も多く、我国も本件の所管が各省に分散されているが、露側にも首尾一貫した対日政策が不在である。そして緊急性の欠如も挙げられる。露にとり日本は友好関係維持が望ましい存在ではあるものの、あえて代償を払ってまで急接近する緊急性に迫られている国ではない。などなどを指摘した上で領土問題は「四元連立方程式」に例えられると著者はいう。変数Xは国際情勢、グルジアウクライナなどCIS諸国が露離れを欲しているのは明らかで、露は日米欧との関係を重視せねばならない状態に置かれつつあり、今後日本の要求に応じなければならない緊急性が生まれるかもしれない。露の国内状況がY。経済は原油の高騰で好調かも知れないが、富裕層・極貧層の所得格差は大きく、インフレに伴って庶民は強い不満を持っている。人口の減少も深刻な社会問題で、特にシベリア・極東地域で顕著。チェチェン戦争も政権の緊急課題だ。これら内外の諸課題をこなす指導者の決断が変数Zだ。プーチン大統領は複雑な性格・思想・人生観の持ち主であり愛国主義者であるが、一方実利主義者でもある。
 これらXYZが全てでは無く、肝心かなめは日本の出方Jであり、その内訳は、意思・力・戦略だ。力は経済力・科学技術力であり、シベリアの再建の鍵を握っているのは日本なのであり、戦略とは対露戦略の優先順位を間違えない事(島も返せ、原油もくれでは足元見られる)だそうだ。しかし何と言っても、いかなる辛苦にも耐えて目標を達成するという固い意志の継続無しには不可能な案件であり、この7日に開催された政府など主催の北方領土返還要求全国大会を小泉首相が欠席し代読メッセージも無かった事につき、櫻井よしこ氏が大会で「非常に誤った政治的メッセージを露に与えた」と懸念を表明したのは全くその通りであり、大変遺憾と言わざるを得ない。