2 肺のCT検査 

                      
 年に一回の住友病院健康管理センターでの人間ドックだが、○月○日、今回は家内も一緒の午前半日コース、いつもの手順で終了した。十日ほどして郵送されて来た人間ドック成績表を見ると、今回はいつもと違って呼吸器CTの欄に「右S3にスリガラス影を示す結節を二個認める。三ヶ月後に経過観察を」とある。早速面談を申込み、写真を見せてもらうと、実寸で一センチほどの薄い影が確かに二つある。ガンの早期発見が叫ばれているのに三ヶ月も放って置いてもいいのかなと思い、同病院の呼吸器科に外来患者として申込みS先生に相談すると、もう一度確認しましょうということで、その日の午後再度CT検査をする。四日経って結果を聞きに行くと「確かに出ていますね。しかし、ごく小さな影でまだ何とも言えない。組織を採って検査するのが次の手順だが、しばらく様子を見ましょう、○月○日にCTを予約しておきます」とのお達しである。
 先生の言うとおりにする以外にないのだが、何をしないのも落ちつかず、「防ぐ、治す肺ガンの最新治療―講談社東京医科大学外科学加藤治文教授監修」を買って読んで見る。肺ガンには気管支にできる「中心型肺ガン」と奥の方にできる「末梢型肺ガン」の二種がある。前者の場合は気管支に内視鏡を挿入して病変の一部を採取して検査する。後者の場合は皮膚の上から針を刺して細胞・組織を採る。肺ガンの組織型に、小細胞肺ガンと非小細胞肺ガンの二つがあり、前者は増殖の速度が非常に早く全身に転移しやすい。後者は三種に分類されるが、多いのは「線ガン」である。いずれにしても初期の場合、手術で患部を除去するのが一般的だが、最近は胸を切らないで、レーザーによる光線力学的治療が注目されている。同じく陽子線、重粒子線(炭素・シリコン・アルゴンなど)を用いる治療もあると言う。化学療法は主として抗ガン剤使用のことで、前述の小細胞肺ガンは抗ガン剤が効きやすく、化学療法が治療の主役となっているそうだ。頁をめくって行くと五年生存率の図が出て来た。かなり進行していた場合三十%まで下がるが、ごく早期で転移がない場合は八十%となっている。
 万一ガンの発症を宣告されたらその後の五年の生き方を考えねば、などと若干沈んでいたら、Eメールで短文の相互交換をしている六歳年上の先輩から「ハッピーエンディング」というエッセイが送られて来た。曰く『今年に入ってから同じ年頃の友人三人が相次いで逝った。二人がガン、一人が脳梗塞。いよいよ死が身近なものになって来た。・・・・・永六輔の「大往生」を読み直した。・・・・・仏教と違ってキリスト教は生きている間のサービスと死に臨む心構えの準備に重点を置いている。・・・・・臨終にあたって覚悟を決め合った家族と穏やかにメッセージを交換し、子供や孫達に生命の尊さ・死の厳粛さを見せて伝えることができれば、それはとても素晴らしいことではないか。・・・・・三年ほど前に元気だった大学同期のT君が、突然ガンが発見されて三ヶ月で亡くなった。ある日、入院中の病院から電話があり、大分落ちついて来たので、退院して暫らくホテル住まいをしようと思うと言って来た。その後数日して訃報が届いた。家族には身内だけの葬儀のやり方、生前お世話になった方々とのお別れ会のやり方、モーツアルトのBGMをはじめ全ての段取りを指示していた。そして、亡くなる前日、睡眠薬を所望し、家族に “Hope to see you again tomorrow morning ” と言って眠り、翌朝そのまま逝った。正に「死んで見せた」素晴らしいエンディングだった』と。
 そうこうするうちに予約の日が来て再検査をし、五日後に先生を訪ねて丸椅子に座る。固唾を飲まざるを得ない場面だが、淡々とパソコンを操作してデータを取り出していた先生が「よし!消えている!」と大声を上げる。「本を買ったりいろいろガンの勉強をしましたよ」とこちらも何気ない振りで言うと、「お騒がせしました」との一言。この頃は機器の感度が良く風邪気味の場合でも陰影が出るのかも知れない。ガンを宣告されてもおかしくはない歳だし、今回は歳相応のいい経験をさせてもらったようだ。先輩のEメールも大変心に沁みるエッセイだったが、それにしてもタイミングが絶妙?過ぎた。