教科書書き換え問題と宮沢談話            

安倍官房長官が4月2日の民放TVで、対中外交に関連し、二十四年前の教科書検定問題に言及し、「検定によって華北への『侵略』が『進出』に書き換えられたと報道され、中韓両国から抗議を受けた。これについて日本は当時官房長官談話で事実上それを認め謝罪したが、そのような書き換えの事実は無かった事が後日判明し、結果として、大変な誤りを犯した」と述べた。本件は当時大々的に報道された後に誤報と分かったのだが、その誤報については小さくしか扱われず、もちろん官房長官談話が取り消された訳でもないので、拙い事だなと思っていたものだから、私も安倍氏の指摘は至極適切と思って見た。
ところが翌々日の朝日新聞は社説でこの安倍発言を「侵略と進出・事実を踏まえて論じよう」との見出しで批判し、「華北に進出という表現は検定前から書かれていた事は事実であり、その限りでは、安倍氏の指摘は事実で、当時のずさんな取材を率直に反省したい」と述べはしたものの、続いて「華北に進出と書き換えられた事実は無かったが、他の例や過去の検定を見れば、同じような問題があったし、そう判断したからこそ、政府は官房長官談話を出したのだろう。これを受けて、アジア諸国との歴史的な関係に配慮するという「近隣諸国条項」が加えられた。今回の安倍長官の発言は、歴史への反省を踏まえた当時の官房長官談話を否定するかのようであり、政府の姿勢に疑念を抱かせかねない」などと続け、要するに、安倍氏のTV発言を不適切と断じたのである。誤った報道に基づいて出された談話にも拘わらず、自分に都合のいい談話だけは正しいものだとして後生大事にする、相変わらずの幼稚なすり替え論旨展開で不快この上ない。
翌4月5日、産経新聞は「安倍発言批判・論点すり替えはやめよう」と題して朝日をたしなめている。要点は以下の通り。[この誤報事件は日本の全マスコミが当時一斉に報じたもので、産経新聞以外は今もってきちんと訂正していない。近隣諸国条項が検定基準に加えられ、中韓両国に過度に配慮した記述が増える一因になっている。そもそも宮沢談話は誤報に基づいて発表されたもので、見直しは当然だ。この問題を改めて提起した安倍氏の発言を評価したい。朝日の安倍発言批判は「東南アジアについては侵略を進出に変えた例もあった。それ以前の検定では、中国との関係で侵略を進出に書き換えさせられた」などの事例を挙げて言っているのだが、当時問題にされたのは日本の中国への侵略が進出に書き換えられたとする報道であり、東南アジアについての記述やそれ以前の検定は問題になっていない。安倍氏も対中外交の問題としてこの教科書誤報問題を取り上げた。朝日こそ事実を踏まえて論じるべきだ] 5日の記者会見で安倍氏自身も「教科書報道がずさんな取材だったというならば、それを誤報と同じスペースでしっかり報道すべきではないか。報道機関として素直に反省して頂きたい。問題をすり替えて批判するのは間違っている」と強く批判した。
ところで問題の宮沢談話だが、当時の宮沢官房長官の「アジアの近隣諸国との友好、親善を進める上で、これら(中国・韓国)の批判に十分に耳を傾け、政府の責任において是正する」という発表について、それが誤報に基づくものであるにも拘わらず、その後当人は一切説明をせず、素知らぬ顔である。無責任の最たるものと言わなくてはなるまい。