中国の国家戦略と日本                  

防衛庁防衛研究所・研究室長で元杏林大学教授、中国問題の権威である平松茂雄氏の掲題の講演を以下に要約する。結論は『中国は建国以来の50年間に、米国や旧ソ連などの大国と対等に発言できる地位の確立を目指して、まず核ミサイル兵器を開発し、次いでそれを基盤にして宇宙・海洋開発へと向かいつつある。当面の目標は台湾の統一であり、その最大の障害は米国と日本であるので、この障害の排除が現中国の喫緊の課題である』である。
(1) 建国後、朝鮮戦争などなどの経験から、米国に対抗するには核兵器を持たなければならない事を認識し、ソ連の協力が停止された後も自力で開発し、1964年核爆発実験に成功した。
(2) 70年には人工衛星を打ち上げ、80年、大陸間弾道ミサイルの発射実験に、翌々年には在来型潜水艦からのミサイル発射実験に成功した。84年に静止衛星を打ち上げ第一世代開発は完了。
(3) その後信頼性の高い次世代核ミサイル開発に専念すると共に強力な火力・衝撃力・機動力のある通常戦力の構築を目指した。
(4) 広範な宇宙開発の中で重要な意味を持つのはまず2003年の「有人宇宙船の打ち上げ」であり、大陸間弾道ミサイルによる、精確な対米核攻撃能力の保有を内外に示した。00年からは米国のGPS(全地球測位衛星システム)に相当する独自のシステム開発に着手している。
(5) 核・宇宙開発の成功によって「いざという時はワシントンを核攻撃する」という威嚇が有効になったわけで、いよいよ台湾を取り込みに行く可能性が出てきたと中国はチャンスを狙っている。更にそれを容易ならしめると共に資源確保を兼ねて、海洋への進出を考えて来た。
(6) 中国の海洋への進出は1973年の国連海洋法会議からであり、南シナ海では南ベトナムが支配していた西沙諸島のいくつかの島嶼を占領して港湾と飛行場を建設した。東シナ海では、90年代に入って平湖ガス油田の開発が始まり、今世紀には春暁ガス田の開発が具体化すると共に、小笠原諸島硫黄島から南西諸島に至る西太平洋海域で、海軍の情報収集艦を含む中国船による海洋調査が行われた。海洋調査の目的は台湾軍事統一の際、横須賀或いはグアム島からの米軍空母の出動の阻止であり、潜水艦の展開と機雷の敷設の為のデータ収集である。
(7) 中国は、この海域で米国の空母と戦闘するのではなく、空母が自由に航行できない状態を作ればよい。その後、大陸間弾道ミサイルで米国の主要都市を核攻撃すると威嚇して米国の台湾介入を思い止まらせ、東京を核攻撃すると威嚇して日本の米国支援を阻止する。そして台湾に対し、米国も日本も台湾を支援する事はないからと、「台湾の平和統一」を話し合うテーブルに着く事を提案する。
(8) もし台湾が中国に統一されれば、黄海東シナ海南シナ海はもとより、南シナ海シーレーンはたまた日本の南西諸島も中国の影響下に入る事になろう。これらは、我国はもちろんアジア各国にとっても、看過しえざる事であり、日本は米国に協力してこの海域の公海自由を守らなければならない。海上自衛隊は常に対潜水艦作戦・掃海作戦を展開して行かなくてはならない。日本の役割の増大と日米安保体制の強化こそ急務である。
以上であるが、著者は杏林大学退官に当たって「中国は日本を併合する」と「中国、核ミサイルの標的」の二著作を刊行しているが、著者は次のように国民の覚悟を迫っている。『米中間で戦争が起きた場合、日本政府は日本の基地を米国に使用させる事が出来るのか。中国が日本を核攻撃すると威嚇して来た場合、それに耐えられるのか。日本が危険を感じて中国に屈服するか、米国との強固な同盟を誇示する事によって中国に手を引かせるか、日本政府は二者択一を迫られる。米国の核の傘に依存しながら、米国の核を日本に持ち込む事に反対するなどという立場は改める必要がある。』 我国自身の核保有の是非を含めて真剣な論議が必要、と私も考える。