安倍内閣人事評                

閣僚人事が発表された翌日、元細川総理特別補佐・元経済企画庁長官・現在福山大学教授田中秀征氏の講演会があり、氏は宮沢元総理の側近でもあって、気に入らない発言が多く今回も期待はあまりしなかったが、予想外に安倍人事を高く評価していたので、以下に要旨をまとめる。
(1) 党人事については、小沢氏に対する秘めた思いが強く、武闘派を持ってきた。ご本人は若干不満だろうが、小沢氏の元子分で隅々まで知り尽くしている二階氏の国対委員長も妥当だ。閣僚については、軽視ではないが論功行賞と言われる部分もあろう。しかし決して悪くない。小泉さんは官邸を知らずに総理になってしまったが、安倍さんは逆に熟知していたので、何と言っても力を入れたのが官邸人事であり、総じていい人事だと。
(2) 塩崎官房長官はなかなか有為な人材だ。日銀出身で財務省の事は分かっているし、外務副大臣をやっていて外務官僚に不信感を持ったし、財務・外務官僚は隅に追いやられるかも。首相補佐官として国家安全保障・経済財政・拉致・教育再生・広報各担当の5名が特別職公務員として政治任用された。更に官房副長官として歴史教科書問題の下村氏、国会対策の鈴木氏、旧大蔵省退任後10年以上たつ的場氏の3人が就任して官邸強化の安倍チームが出来上がり、官僚に引きずられない政治主導を目指す体制が出来上がった点、もちろんこのようなシステムに対する抵抗も多いが、大変いい布陣と言っていい。経済財政担当相の大田弘子氏も芯の強い、細川内閣の経済改革研究会で実績を挙げた人で面白い。総じてもう一段階上の「成長路線」を目指そうという内閣であり、消費税はもう少し後!と言う事で谷垣・与謝野両氏と一線を画した。これでいい、と田中氏言うし、私も賛成だ。
(3) 今後の課題の第一は「改革の速度を落としてはいけない」のであって、よく格差解消が叫ばれるが、小泉内閣ではフリーターなど横ばいで来て最近はむしろ下がっている。格差は、1986年の、国際分業へ向けた産業構造の転換を提言した前川レポートから始まったのであって、注意しなくてはならないものの、既得権益にしがみついている輩は排除すべきと。第二は「歳出削減の中身を間違えるな」であり、納税者の役に立つ施策実行のための政策費は削ってはいけない。役人の数・給与・経費などの削減は民間並にやるべきで、その意味で閣僚の報酬削減は意味がある。地方公務員の退職金が3〜4千万円というのは困ると。
(4) 靖国に行くか行かないかについての中韓両国への明言など、もはや気にしなくていいが、日本国民に向かっては自分の歴史認識を語って欲しいと言う。具体的には「日清日露で得た満州の権益を確たるものにすべく、進出を考えたのは決して軍人だけでなく、この四島だけでは食っていけないと当時の国民の多くが考えたのは事実だ。結果として悲惨な失敗に終わったわけで、戦後は羹に懲りて平和主義に徹して来たし、今後も二度と対外進出はしない」と言うべきだという事なのだが、このような表現なら全く問題ないと私は思う。安倍総理の母方の祖父・岸信介日米安保条約の改正を推し進めて現在の日本の骨格を作ったのだが、父方の祖父・安倍寛は、1942年の翼賛選挙に、軍閥主義に対する批判の表現として無所属・非推薦で出馬したにも拘わらず当選、反骨の「昭和の吉田松陰」と言われたのであり、この二人の祖父双方から新総理は学んで欲しいと田中氏は結んだ。
 講演はほぼ以上のようであり、期待感をにじませる内容であった。昨日の首相所信表明演説を今朝読んだが、各省提出原稿を満遍なく散りばめた従来のやり方を打破し、安倍チームとして何に注力したいかがよく整理されており、30分の演説としては合格と言える。中でも教育再生に早急に取り組むようだが、教員免許更新制導入と教育基本法改正には70%の世論の支持もあり、私も大賛成だ。守旧派を駆逐した小泉後継として日本再生の先頭に立ってもらいたい。