安倍政権の評価と展望             

屋山太郎古森義久らの論説を参考にして私の所見をまとめると以下のとおりである。
1. 小泉以前は五当三落(5億円なら当選、3億円では落選)と言われたように金権体質の議員が多い時代だったし、外交面では中国へ巨額のODAを出すばかりか、これを利権化してしまった時代だった。池田・佐藤派が保守本流だとは言え、実は金権・土下座の主流派であり最後は媚中橋本派であった。これを小泉が壊した。小泉は目に見えるものを壊したのだが、その上で安倍は長年の懸案である真正保守の確立を目指している。
2. まず教育基本法の改正だが、その成立の意味は大きい。「教育は不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきものである」とする旧法第10条が、一部の過激な教師らが国旗国歌法や指導要領などを無視する時の拠り所だったのだが、改正によって、法を守ること(至極当然なこと)を教職員らに求める規定が追加され、前述のような違法行為が許されなくなった。その他、我が国と郷土を愛する態度・伝統と文化の尊重・公共の精神・豊かな情操と道徳心などが盛り込まれ、教育再生会議の議論共々、戦後教育の歪みを正し、健全な国家意識を育むための思い切った改革を期待する。
3. 防衛庁の省への昇格が成立したのは結構なのだが、久間氏が初代の防衛大臣では頂けない。これほど戦略思考や国際情勢認識もない人物が大臣になっていいのか疑問に思う。北朝鮮から撃たれた弾道ミサイルをキャッチする情報網は米国に負っていて、日本向けは日米連携によって撃ち落とすが、「米国に向かっているミサイルを撃ち落す事はできない」と久間氏は言う。更に核議論について、「議論する事自体が他国に間違ったメッセージを送る事になる」と反対する。こんな程度の大臣では大変心許ないし、米国の信頼を勝ち得る事も出来まい。
4. 在任中に憲法改正の目途を付けたいと安倍氏は言っている。民主党の基本政策の安全保障分野の原案が最近明らかになったが、「我が国が直接、急迫不正の侵害を受けた場合には、個別的、集団的という概念の議論に拘泥せず、憲法に則って自衛権を行使する」としており、難問と思われて来た「集団的自衛権」の行使について民主党も常識的判断をするようになってきているので、党利党略を捨て国益を守る一点で合意を形成し、憲法改正を迅速に取り進めてもらいたいものである。
5. 安倍外交は哲学を前面に打ち出しているのが頼もしい。一つは「自由、民主主義、基本的人権、法の支配」という4つの価値の強調であり、昔からよく言われた「全方位外交」、「等距離外交」とか「国連中心主義」ではない事だ。もう一つは「日米壕印の海洋国家連合」の推進であり、麻生外務大臣の「自由と繁栄の弧」にも通ずるものだ。いずれにしても中国牽制の思惑を持ち、日本にとって大変危うい「日米中の正三角形」論、「東アジア共同体」論の議論を終焉させるもので、それは正しい方向だと考える。
6. 以上のようなビジョンを描きながら、安倍氏は長期政権を見据えた人事を進めている。外務省から親中派をまず排除した。北朝鮮への圧力政策に反対し続けた田中均氏でなく、谷内氏を外務次官にし、中国課長に欧米派を起用した。内閣官房から女系天皇を容認しようとした古川貞二郎人脈を排し、的場順次郎を持ってきた。いずれも適切な人事である。
7. さて来年7月の参院選の展望であるが、安倍支持率が急落している(復党問題にしても、本間氏問題にしても手際が悪すぎる)とは言え、自民党支持率は40%前後であり、無党派が自民に回帰しつつあり、一方民主党小沢のイメージは良くなく、余程の事が無い限り、一人区29人の半分を確保して自民党は勝利するだろう。任命責任を云々されているが、余り本質的でない問題を過大にあげつらい、足を引っ張るのは如何なものかと私は考える。