新しい年の世界と日本        

一年ぶりに産経新聞ワシントン駐在の古森義久氏の掲題の講演を聞いた。要旨は下記の通り。
1. 丁度阪神大震災12周年の日で、その思い出から話が始められた。氏はワシントンでCNNにより惨事を知ったそうだが、こんな混乱状態にも拘わらず人々が整然と助け合って行動している事にCNNの記者は驚嘆していたそうだ。又ごく最近のハリウッド映画「硫黄島からの手紙」がインテリの中での話題なのだが、それは、一日でも本土空襲を遅らそうと、同胞の為に頑張る、という日本人の生き様への感銘だそうだ。いずれも誇るべき事ではなかろうかと氏は述べる。戦後60年東京裁判史観によって自縄自縛になってしまった日本人が少しずつそれを解き、本来の日本人に帰りつつ、我が国は普通の民主主義国に今やっとなろうとしていると氏は言う。私も早くそうなって欲しいと思う。
2. 今年もイラクを中心に激動の年であるが、イラクが民主主義国になれるか否か、それに成功しないと米国の混迷は続く、として、氏はイラク情勢を見る時の鍵を4点挙げる。
(1) ブッシュの再選はなく、歴史に名を残せるかどうかを今後は考える。頑迷でぶれない人物だ。
(2) イラクは何回か選挙をやっており、イラク民主主義の一応の枠組みは出来つつある。
(3) 民主党には統一したイラク政策がない。ヒラリー以下もイラク派兵には賛成した。
(4) 米国をテロから守るのだと、イラク出動の軍人の意識は高い。海兵隊志願の学生も多い。
3. 米国の日本への期待、特に安全保障面での期待は一段と高まっている。今年は日本にとりチャンスの年だと氏は言う。「中国は潜在的脅威」との思いが米国には少なからずある。対中貿易赤字・中国の模造品・急激に拡大する軍事力・許せない人権問題・アフリカ内の反米諸国への接近などを挙げて氏は米中新冷戦への突入を想定する。北朝鮮問題でも米国は中国に不満を持ち、又韓国に対しても「余り頼りに出来ないのでは?」との思いを抱いている。そんな中で日本への期待・要請・依存が米国内で強くなって来ているそうだ。昔の米国は「日本の核武装はダメ」と言っていたのだが、最近は「日本に核武装してもらうのが米国の国益になる」という見方も出て来ていると。ブッシュ大統領の補佐官だったF氏は、核拡散防止条約から脱退して日本に核武装してもらうべし、とニューヨークタイムズに投稿しているし、共和党の某氏は、中国の膨脹を封じ込める為にも、無法な北朝鮮への圧力の為にも、政治的軍事的にも安定な、そして信頼出来る日本に核武装してもらおう、と提案している。もちろん米国政府の見解にはなっていないのだが、米国が日本に頼りたいとの思いはかなり強くなっていると言えると。安倍政権について、以前は少々危険と言っていた向きもあったが、今はまったく無いと。
4. 日本への期待は中韓以外のアジア各国でも同じだそうだ、というので、私もインターネットで調べてみると、インドネシアのスダルノ国防大臣が昨年10月にロイター通信のインタビューに応じて、安倍政権下の日本への見解として「東アジアの安全保障での、日本のより力強く積極的な役割を歓迎する、日本のそうした役割は中国との均衡という点からも好ましい」と語っている。一方、古森氏は安倍首相のNATO訪問を高く評価する。1月12日NATOの最高意志決定機関である北大西洋理事会で首相は英語で演説し、「国際的な平和と安定の為に自衛隊の海外活動をためらわない」とし、更に「日本とNATOは自由・人権・民主主義・法の支配という基本的価値を共有している」と強調した。そして又、米国の一極支配に陰りが見え始める中で、日・米・NATOのトライアングルの、日本の安全保障への効果を期待すると。
5. いつものようにバランスのいい明快な論旨であったが、イラクでてこずっている米国の苦衷とそこに起因する日本への期待という視点が印象に残った。戦後既に60年、安倍政権のもと一国平和主義の夢から一日も早く目覚め、日・米・NATOで世界平和の維持に貢献したいものである。