プーチン・ロシアと北方四島返還            

北方領土の日である2月7日が、残念ながらメディアに取り上げられる事なく、今年も過ぎてしまったが、拓殖大学教授・木村汎氏の講演の要旨を記し、心ある方々の記憶を喚起したい。
(1)最初に「何故ロシアは重要なのか」だが、(a)米国と殆ど同じ3000発の核弾頭を持っている、(b)世界一のエネルギー大国である、(c)ユーラシア大陸に跨りいろいろな事にキャスティングボードを持つ、この三点が世界各国にとって共通している事項。我国にとっては「平和条約未締結」が付加され、従って四島未決着で遠い隣国となっている。(2)まず二期目に入ったプーチン・ロシアの現況であるが、一言で言えば「権威主義への先祖返り」である。エリツィンファミリーの残党の清算に成功し、身内の「シラビキ」(武闘派)で固め、民主派・知識人と対立しつつもワンマン体制を完成しているが、ほころびも始まっている。2008年には意のままになる人物を後継者に選び、自らは院政を敷くべく狙っている。(3)エネルギー価格の高騰によって外債を返済し、外貨準備高も急増したが、しかし経済は重大な限界を持っている。エネルギーへの過大な依存によるmono経済であり、資源依存から脱して付加価値の高い産業構造への転換が必要で、製造業・IT産業が期待されるのだが、いずれも日本からの協力が欲しいと本音では彼らは思っている。ロシア社会の現状を見ると、少子化・平均寿命の低下(男性58歳)により1億4600万人の人口が毎年70万人ずつ減少しているし、2050年には1億1300万人になろうと国連は予想している。特にロシア極東人口の激減は大問題なのだが、雇用の造出が鍵であり、中国人でなく日本による資金・科学技術・経営ノウハウの極東シベリアへの投入が必要と木村教授は言う。(4)ロシアを巡る国際情勢はどうか。(a)WTO(世界貿易機構)への加盟交渉の難航、(b)ベネズエラ大統領との武器売買契約、(c)米ロ合同軍事演習の延期、(d)G-8からの追放?、など米国人のロシア不信は大きい。ヨーロッパはどうか。イラク戦争では仏独側についたが、ウクライナベラルーシへのガス石油供給停止を始め、契約遵守観念も薄く「Russia is different」と言う人が多い。現在、ロシアは欧米地域で「除け者」とされている。こんな事からプーチンはアジアへのエネルギー輸出を3→30%へ伸ばすと発言するなど、アジアへの参入を試みている。(5)そこで今後の日露関係だが、小泉首相の四島一括返還論・北方領土洋上視察(写真)・中央アジア訪問など良かった点もあるが、対独戦勝60周年記念式典参加(2005.5)とか「北方領土の日」全国大会不参加など誤ったシグナルを相手に送った失敗もあったのは残念。以上述べて来た如く、現在は我国にとって交渉に有利な時期でなく、安倍内閣としては「静観と突き放し」がベストの政策だと言う。大統領選挙が過ぎ、エネルギーがピークを越え、中国が台頭して来る頃、「極東開発の鍵」は「省エネ技術・製造業・IT産業」などではないかと、これらを武器にしたたかに交渉を始めるのが良いと教授は締めくくる。
 下の写真は、根室海峡を隔てて国後島を眼前に見る別海町白鳥台に建立された「四島への道・叫びの像」である。老女が息子・孫を両脇に従え、凄まじい迫力で「返せ」と叫んでいる。全国民が一度は訪ねて叫ばなくてはいけない。