第53回大河内記念生産特賞                

第53回(平成18年度)の大河内賞贈賞式が今年3月日本工業倶楽部会館(東京丸の内)で行われたが、今回は住友金属工業(株)も表彰されるようだし、友の会会員(大河内賞受賞経験者で贈賞式の陪席を許される)の一人として初めて参加した。住金の受賞対象技術は和歌山製鉄所の「新製鋼」と社内では略称されるもので、大河内記念賞の中で位の一番高い生産特賞である。正式受賞業績は『高品質・高効率・低環境負荷を同時実現する次世代製鋼プロセスの開発』である。鉄鉱石が溶鉱炉で溶かされて出てくる銑鉄には品質上問題となる硫黄が200ppm、燐が1000ppm含まれており、種々工夫して何とか硫黄を8ppm以下、燐を100ppm以下に脱硫・脱燐していたのだが、生産性とか不純物安定度とかの面で全く不満足であった。この不純物除去方法を抜本的に改善したプロセスを開発し、工業的に実用化したというのが受賞内容であり、現在、超高級鋼のために必要な極低不純物濃度を「常時」達成しつつ、製鉄所として最高の生産性を実現している。製鉄所としての存立が危ぶまれた時期に、世界の石油掘削会社の設備投資を予測し、専用脱燐炉と脱炭炉を理想的に配置した新たな製鋼工場(写真下は脱炭炉)を建設・稼動させ、主要石油企業の信用を勝ち取った実績は特記すべき事だと讃えられている。BP(British Petroleum)・SHELL・Exxon-Mobileの3社が使用する油井管のうち、住金は最近約40〜90%の納入実績を持つ。
 もう一件の生産特賞は(株)島精機製作所の「無縫製コンピューター横編機およびデザインシステムを活用したニット製品の高度生産方式の開発」である。「開発の背景」には『従来のニット製品は、ニット編地を裁断または成形編みの後、各部を縫い合わせて仕上げていたが、このようなニット製品は縫い目がごわつき、ニットが持つ伸縮性も損なわれてしまうという欠点があった。更に縫製工程は、非常に手間が掛かるためリードタイムを遅らせ、加えて裁断する際のカットロスなどが多く、製品は高コストになっていた。これらの欠点を解決するために、島精機は1995年に世界初の無縫製コンピューター横編機を開発し、縫製作業を不要とした』と書かれている。島精機は本社が和歌山の、創立1962年、手袋の自動編機製造販売から始まった会社で、40年後ニットの完全自動編機を世界に先駆けて開発した。上の写真がその一つであり、この機械の下から見る見るうちに縫い目の無いセーターが出来上がって出てくるのである。この一台の機械で、胴部、その左右で腕部を、それぞれ筒状に編んで行き(胴部で言えば、腹と背を同時に二つの編み針で編み、端部に来たらそれぞれを繋ぐと想定される)、しかるべき長さになったら腕と胴を繋ぎ、最後は絞って首を作って完成となる。毛糸からセーターがあっという間に自動的に出来上がるのだ。同社は現在資本金148億円・従業員1400人・年間売上高380億円・株価3140円の中堅企業であるが、本機械を最近3年間で2137台販売し、国内・世界の市場でいずれも90%の占有率を保持しているそうだ。住金の場合も、島精機の場合も本業を徹底的に極めた上での世界に誇る技術開発の完成であり、分野は異なるが、共に大河内生産特賞を受賞するに相応しいと私も考える。