帰って来い! 「はやぶさ」                

 丁度一年半前に『頑張れ、小惑星探査機「はやぶさ」』を書きましたが、それは小惑星イトカワへのタッチダウン(着陸・試料採取)が何回か試みられている時であった。その後に再生された各種データを用いての解析によれば、第一回目は降下中に障害物を検出した為に、「はやぶさ」は自ら判断して緊急離陸を行なったが、その後緩やかなバウンドを2回繰り返してイトカワ表面に約30分間着陸(2005.11.20)したあと離陸したと確認された。第二回目(11.26)は予定通りのタッチダウンを実現し、表面との接触時間は1秒程度であって、当初は成功かと思われたが、その後の解析によればこの時、表面の粉塵発生の為の金属弾は発射されず、試料採取は不成功に終わったようだ。いくつかのトラブルの為言わば満身創痍となり、一度は行方不明にもなったが、幸いにも途絶した通信がその後何とか回復し(2006.3)、一年後のこの4月25日地球帰還に向けた本格的巡航運転段階に移行したそうだ。今までの経緯を復習しておくと以下の通り。
2003.5.9 M-Vロケット5号機で内之浦から打ち上げ。イオンエンジンを全開にして地球の公転軌道から少し外へと膨らんで加速し、地球を追いかける形で更に速度を稼いだ後、およそ一年後にその背後から再び地球公転軌道上に躍り込み、地球高度3700kmを通過して、公転速度をそのまま頂戴して地球から離脱(Swing-by)した(2004.5.19)。その後はイトカワの軌道に入ってこれを追いかけた。Swing-byから一年四ヶ月後、打ち上げからは二年四ヶ月後「はやぶさ」はイトカワに追いつき、その上空20kmの地点にて静止(2005.9.12)。本来ならこの三ヶ月後の2005.12に出発して、公転周期1.52年のイトカワの軌道を一周し、2007.6に地球帰還を果たす予定だったが、先述のような事態で計画がずれてしまい、次の帰還のチャンスは三年後の2010.6である。この為に「はやぶさ」はイトカワの軌道を二周とちょっと(その間地球は三周とちょっと)回る必要がある。成功すれば小惑星のサンプルを搭載したカプセルの回収はオーストラリアのウーメラ砂漠である。
さて宇宙運転には姿勢制御と推進力が必要だが、「はやぶさ」の姿勢制御には、高速回転のはずみ車の回転数を変化させそのトルクの反作用で衛星本体を回転させる「リアクションホイール(RW)3台」とヒドラジンと酸化剤の「化学スラスター12基」が搭載されたが、今や化学スラスターの燃料は無くなり、RWも使えるのは1台のみとなっている。推進力は4台のイオンエンジンであるが、幸い当初60kgあったキセノンガスはまだ30kg残っていて、帰還には十分のようだ。去る4月14日新宿で第26回宇宙科学講演と映画の会がJAXA宇宙科学研究本部主催で開催され、初めて参加させてもらったが、立ち見の人も大勢の盛況であり、研究当事者からの話は大変感銘深いものであった。イオンエンジンとRW1台で姿勢を制御しながら帰還する綱渡り計画であり、成否は楽観を許さないようであるが、成功を祈りたい。
[図の説明] 原点原点は太陽。xy軸の単位はAU(Astronomical Unit)。1は地球と太陽との距離で1.5億km。地球は殆ど真円だが、イトカワは離心率0.28で近日点は0.953AU、地球軌道の内側に入って来る。「はやぶさ」打ち上げ点はx=−0.8、y=−0.6、Swing-byはx=−0.25、y=−1.0。プロットして後、図上でそれぞれをトレースしながら読んで下さい。