日本ほど格差のない国はない              

都市と地方の格差是正・農業の戸別所得補償・子育て支援充実などを訴えた民主党参院選に大勝したのを受け、危機感からか与党内でも「格差問題を重視すべし」という声が大きくなって来ているようだが、「日本ほど格差のない国はありません!」という本にも同感していたし、もう十数年前から世界は大競争に突入したと言われ、国民は賢くもそれを理解して少々の痛みも覚悟の上「小泉改革」に賛同していたわけだから、「今更なんだ!」というのが私の率直な感想だ。
 そう思っていたら8月25日の日経新聞に「社会保障、格差をならす」の見出しで厚生労働省の発表した「2005年所得再配分調査」の要旨が報道されていた。それによると、税金のほか、年金・医療など社会保障制度で所得を再配分した後の所得格差は三年前の前回調査とほぼ変わらず、実質的な所得格差はそれほど広がっていないという。ジニ係数で言うと前回調査の0.3812に対し今回は0.3873だそうだ。大竹阪大教授の「全体の格差が広がっていない中、低所得層の動向に注意しろ」、橘木同志社大教授の「若年層のジニ係数が一部で拡大傾向にある事を重視しろ」などのコメントがあるが、(若者など自力更生で自ら道を拓くべきだろうに)、それは当然として、しかし「再配分後、ジニ係数横ばい」をまずは国民の共通認識としなくてはならないと私は思う。国際比較の為OECD採用の枠組みに沿って総務省が算出した日本のジニ係数は2004年時点で0.278、調査時点の違いはあるものの、比較可能な先進24ヶ国中、上から12番目と中位に位置しているという。また世銀の資料によれば2005年のジニ係数は米国0.41 英国0.36 独逸0.28 スウェーデン0.25 そして日本0.25だそうだ。日本は決して格差が大きい国ではないのである。
 同月27日の日経新聞「経済教室―農業改革・方向と課題」で本間東大教授は「大規模・効率化こそ本筋」とし「農地利用を自由化し、市場を通じ多面的機能を発揮さすべき」と主張する。氏は「日本の農家は零細ではあるが決して弱者でも貧困者でもない。販売金額が百万円に満たない農家が六割近くを占めているが、農家の総所得は全国平均で771万円もあり、勤労者世帯の所得より二割以上多くはるかに豊かである。こうした農家全てを対象に所得を補償するのが民主党案であると非難し、今進めるべき政策は、全ての農家を一律に保護し現状維持を図る事では断じてない」と解説している。地方に行くと城のような農家が多く「農家が貧しいなんてとてもそんな筈はない」といつも実感しているものだから、氏の主張には私は大いに納得する。
 同日同紙の「オピニオン」に、東京でソフト事業を営んでいる中国人・宋文洲氏の『「弱者こそ正義」脱却を』と題する主張が載っている。「資本主義の原動力は成長だし、その過程で格差が生ずるのは自然な事。経営責任が厳しく問われる今、自覚を求める意味でも役員報酬はもっと増やすべき。日本では努力しない人まで平等を主張する、いつの間にか貧しい方が清く、弱者の方が正義になってしまった。まるで中国の文化大革命のようだ」と慨嘆している。
 これら多くの正論が浸透せず、言わば財源の保障の無いばらまき政策に国民は目が眩んでしまったような参院選結果だが、真に残念、国民をミスリードするメディアの責任も重い。
[ローレンツ曲線] 世帯を所得の低い順番に並べ、横軸に世帯の累積比をとり縦軸に所得の累積比をとって、世帯間の所得分布をグラフ化したもの。全ての世帯の所得が同額なら45度線と一致。所得に偏りがある限り、ロ曲線は下方に膨らむ。[ジニ係数] ジニ係数は、ロ曲線の下方への膨らみ具合を数値化したもの。45度線とロ曲線に囲まれた面積と45度線の下の三角形の面積との比。