限られた日本の「裁量の余地」−その2       

新刊「暗流」の最終第7章は「中国の台頭、日本に残されたシナリオ」である。以下著書からの抜書きである。前章迄の考察で、米中関係の行方が日本の進路に大きな影響をもたらす現実が浮かび上がって来た。視点を21世紀半ばに迄伸ばし、超長期で米中日関係を占おうとすれば、新たに二つの「巨大変数」を計算に入れなくてはならない。第一は、「米国のアジアへの軍事的関与」が長期的にどの程度維持されていくのか、であり、第二は、大国化するにつれ、「中国の対外政策」がどのように変わって行くのか。この二つの変数が日本に及ぼす影響をあえて図にすると、図7-1になる。横軸は米国のアジアへの軍事的関与の強弱、縦軸は中国の対外路線の「強硬・協調度」である。日本にとって一番望ましいのは、Bの展開である。現在はブッシュ政権当初のAからA・Bの境界線に近づいている。ただ、中国の軍備増強は加速しており、Bとは言えない。最も困るのはCであり、アジアの緊張が増し、何が起こるか予想が難しくなる。中国が協調路線をとり、米軍がアジア関与を縮小すればDに近づく。 米国の存在感が薄まりいわゆる「アジア地域主義」の台頭につながる可能性がある。さて、中国の台頭を受け止め、日本が国益を守って行くにはどんな対応が可能か。我々の前には次の四つのシナリオが考えられる。
(1) 日米同盟の堅持、対中戦略でも日米協調:このシナリオの成立条件は 、図7-1で言えばAかBの状態が保たれる事。我国は集団的自衛権行使の解禁、在日米軍再編への協力など米国への側面支援を強化し、対米追随の批判を物ともせず米国というタンカーに副操縦士として乗り込む。
(2) 日中接近を加速、協商関係も志向:遠い将来、米国のアジア関与が大きく弱まる場合、我国は好むと好まざるとに拘わらず、このシナリオに追い込まれる(D)。安倍政権当時、「戦略的互恵関係」の構築を目標に掲げたが、日中が戦略協力を試みるという点では重なる部分がある。
(3) 防衛力の格段な増強、自力防衛を志向:米軍のアジア関与の劇的な縮小により、米国の「安全保障の傘」が揺らぎ中国との協商関係も望み薄の場合(下図Cに近い)、このシナリオが浮上する。いわゆる普通の国に近づくとも言えるが、防衛予算増大とか徴兵制などの危険が伴う。
(4) 非武装中立を宣言、「鎖国体制」に回帰?:他のいかなる国とも同盟を組まず中立に徹する生き方だが、理想論としてはともかく、現実には成り立たないだろう。
 これ以外にも様々な選択肢があるかも知れないが、この四つを並べただけでも日本の厳しい現実が浮かび上がって来る。そしてどのシナリオを選ぶか、残念ながら日本には余り裁量の余地がない。すなわち、「米国のアジアへの軍事的関与と中国の対外路線」という変数がどう動くかによって、日本が採りうる選択肢は大きく左右されてしまう。
では、どうすればいいか。中国の台頭がアジアにどんな地殻変動を起こすのか、今から予想する事は出来ない。出来る事は、将来どのシナリオを強いられてもあわてず、適応出来るようになるための努力を積み上げる事しかない。(a)日米同盟を堅持し、(b)米軍をアジアに繋ぎ止める努力を払い、(c)日中関係の悪化を防ぎながら、(d)自前の防衛力も充実させる、がやるべき努力だが、この四つの同時実現は至難の業だ。しかし、この可否に日本の命運がかかっている、という著者の結論に、私も同感である。