インテル・インサイド                     

「ものづくり」は我国の得意とするところとずっと言われて来たが、最近はそれにも黄信号がつくようになったようで、特にエレクトロニクス業界は、一時50%の世界シェアを持っていたのに昨今は20%以下という事実に表れているように、深刻な状況にあるようだ。そんな折、「技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか」という新刊(妹尾堅一郎著、ダイヤモンド社)が目に付いた。画期的な新製品が惨敗する理由、技術だけで勝つ時代ではない、などと帯に刺激的な事が書かれているのにつられて、読んでみたが、要点は「インテルインサイド」というキャッチフレーズにあるようなので、それを中心に著者の言いたい要点をまとめてみる。
1) 著者の問題認識を端的に表すデータが添付の図であり、エレクトロ二クス製品はどれも、デジタルカメラを例外として、徹底的に負けている、と書かれている。
2) 部品を組み立てて作られるパソコンは、従来は完成品メーカーが主役で、部品やソフトは脇役だったが、今は逆でMPU(インテル)という部品とOS(マイクロソフト)が主役だ。インテルが基幹部品であるMPUの急所技術を開発して、あとはつなぐだけで済む組立型製品に変えてしまった。
3) すなわち、パソコンの中で最重要なMPUの、演算機能と外部機能とをつなぐPCIバスを徹底的に開発し、PCIバスの内部技術を完全にブラックボックスに閉じ込めた。その一方で外部とのインターフェースについては、プロトコル(公式手続き)を規格化し、国際標準として他社に公開した。すなわち、「内クローズ、外オープン」にして、内部から外部をコントロールする仕組みを完成した。
4) MPUだけでパソコンを作るのは困難なので、そのMPUを組み込むマザーボードという中間材をつくるノーハウを開発した。これは大変な知的財産であり、このマザーボードがあれば、自らパソコンを組み立てる事が飛躍的に楽になる。しかし、これを自社で製造してはコストダウンが出来ないので、インテルは台湾メーカーにそのノーハウを提供し、競争させてコストダウンを図った。
5) この廉価なマザーボードはあっと言う間に普及し、パソコンメーカーは雨後の竹の子のように出現した。企業でも一人一台が可能になった。部品から完成品まで自社だけで垂直統合で作るのではなく、各プロセスを担当する連合軍が勝つという構造が出来あがった。しかし、一気に拡大した市場から得られる収益はすべてインテルに還流する仕組みなのだ。
6) 要するに、<1>急所技術の見極めと開発、<2>ブラックボックス化とオープン化の組み合わせ、<3>市場拡大と収益確保を両立させるビジネスモデル、この三位一体の開発・知財・事業の各戦略が成功の秘訣。この結果日本のパソコンメーカーは壊滅した。
一方、アップルコンピュータiPodiPhoneに典型的な、アツプル・アウトサイドとも言うべき完成品主導型の事業戦略もある。製品はアイデアとコンセプトの斬新さ、デザインと使い勝手の良さで時代の先端を行くが、部品は、マイクロプロセッサー・ビデオプロセッサー以外、日本が供給している(最近は台湾製に)。すなわち、部品を下請けに使うやり方だが、巨大な利益が米国企業に流れるのはインテルの場合と同じだ。