鳩山外交に募る不安


この表題は、普天間飛行場移設問題で政府方針が正式に表明された日の、翌日(16日)の朝日新聞社説の見出しである。思い起こせば、安倍内閣麻生内閣時代に、本質的でない瑣末をしつこく取り上げては、内閣支持率の低落を必死に画策し、民主党政権誕生に貢献した新聞だが、昨今の鳩山内閣の迷走はさすがに心配になったようである。記事を転記しつつ社説の要旨を以下に記す。
 「展望欠いた政府方針」では、今回の内閣方針は方針と呼べるものでなく、ただ結論を先延ばしするだけだとし、『ただ「待ってくれ」「辺野古の可能性も残っている」などと優柔不断な態度を続けるのは同盟を傷つけ、ひいては日本の安全を損ないかねない危機すら感じさせる』と断じている。「同盟の重要性確認を」では、外交には相手があるという現実をあまりに軽く見ていないか、普天間返還が凍結される事も覚悟する必要がある、辺野古移設とセツトの海兵隊員8千人のグアム移転も進まない恐れがある、堂々巡りのあげく、辺野古移設の受け入れに戻ろうと言ってもそれはもはや無理だ、とし、『鳩山首相に求めたいのは、普天間の移設をめぐるもつれを日米関係そのものが揺らぐような問題にさせない事だ。出発点は同盟の重要性を新政権として再確認する事にある。日本の安全保障にとって、米国との同盟は欠かせない柱だ。在日米軍基地は日本防衛とともに、この地域の安定を保ち、潜在的な脅威を抑止する役割を担っている』と注意を喚起している。最後の「大局を見失うな」では、『首相は、普天間の米海兵隊が担っている抑止力を、飛行場の返還後も何らかの形で補う必要はあると考えているのだろう。3年前の在日米軍再編をめぐる日米合意全体の見直しを目指しているのではなく、普天間の移設先だけの問題である事をはっきりさせるべきだ』と助け舟を出し、『普天間をめぐるこじれで日米両政府の円滑な対話ができなくなっては大局を見失う事になる。事態がここまで来た以上、決着は容易ではない。首相は現実を直視して、相互信頼の再構築を急ぐべきだ』と締め括っている。この現実直視は、具体的には前政権での合意を実行に移す、という事であろうから、このまま産経新聞の社説にしてもおかしくない主張である。このような社説を朝日でさえ書くとは、鳩山総理はとんでもない総理だと言う事である。
米国はH18年5月に日米で合意した現行案の再確認を求めているが、仮にこのまま先送りとなれば、現行案の破棄と受け止め、日本からの米軍撤退を米国は前倒しに考えるのではなかろうかと私は懸念する。H21.7.15付けのA4一枚短文「オバマ外交で沈没する日本」で日高氏の論旨を紹介したが、その結論は『在日米軍の防衛力を強化するのは日本国内の(民主党小沢の様な)反対勢力もあって容易でないので、在日米軍基地を極端に縮小し、米軍主力はグアム・ハワイ・アラスカの線に下げるのではなかろうか』であった。着々と軍備を増強している中国にとり、太平洋の米中による分割支配が彼らの大目標である。それが現実となり、中国が国産空母を完成して東シナ海制海権を掌握すれば、日本は米中両国から無視され、両国接近の谷間に沈んで行くだろう。米国の元高官は「日米同盟の弱体化は中国にとって利益になる。短期的にはむしろ日本に非常に友好的に接するだろうが、長期的には、より攻撃的になる」と言い、もう一人は「日本と米国が、北京の権力者達のひいきに誰が最も多くあずかれるか競争すれば、両国とも損をする。もっともそうした競争では米国の方が有利だろうが。反対に、日米が一緒になって中国と向き合えば、我々三ヶ国のみならずアジア・太平洋の全域が得をする」と言う。更に米国のある日本研究者は「日本は台頭する中国によって削り取られて行く」と言っているそうだ。民主党が今やっている事はこのような我国にとって悪夢の時代の到来を自ら招いているに等しいのであり、国賊と言うべきではないか。総理が今なすべきは、県外国外移転を唱導して沖縄県民の複雑な心理を弄ぶのでなく、慰謝料を増額しつつ、国の将来の為に今しばしの辛抱をと、土下座して説得する事である。