なぜ自民党は大敗したのか

東京大学先端科学技術研究センター特任准教授・菅原琢著「世論の曲解」(光文社新書)を読んだが、掲題はその副題であり、その大敗の原因は「世上言われている小泉改革離れ」では決してない、としてデーターの正しい分析から真の原因を示している。以下は要旨。
1. 小泉政権誕生と2001年参院選挙圧勝
1993年の下野以来、自民党の長期政権を守っていた選挙制度という外堀は、徐々に埋められて来た。それは中選挙区制の廃止、小選挙区での野党の結集などであり、自民党不利の状況が発生した。一方それまで自民党が頼りにして来た農村部・一次産業・土木建設業は衰退の一途をたどった。しからば、これまで苦手だった都市部での集票を狙うしかない。これを意識していたのが小泉であり、「これまでの支持層がそっぽを向いても、無党派層を呼び込む大胆な政策を打ち出すほかない」と彼は言った。実際にデーターで見てもそれは明確で、都市部住人(若年層/中年層)の支持を集め、2001年参院選に圧勝した。
2. 2005年郵政解散衆院選圧勝
もともと改革志向が強い都市部の若年・中年の有権者が、郵政解散で立ち上がり小泉自民党に投票する。従来の自民党が支持されたのではなく、改革を進める政党としての自民党が支持された。しかし、多くの政治家・評論家は、郵政民営化というお題目やテレビに、若者を中心とする有権者が踊らされ、小泉という有権者の受けのよい人物が総理総裁だった為に、一過性の投票行動を取ったと解釈した。そしてこういった単純なストーリーを最も好んだのは、自民党の古い政治家達である。「人気のある党首」を求める事が正解だと考えてしまい、小泉への支持の深層にある、自民党政治に求められた変化を、彼らは拒絶したのである。
3. 2007年参院選自民党大敗
この大敗は、野党間協力や有力候補者の擁立など、野党側の一人区の選挙戦略がうまく行った事によって生じたものであって、「自民党が負けた」というより、「野党が大勝した」という方が相応しい。「小泉構造改革による農村の衰退」が原因ではない。にも拘らず、政治家や報道関係者はこの「神話」を信じ、宣伝し、学者も誤った分析でお墨付きを与えてしまった。この結果、自民党はこの参院選惨敗の総括に失敗し、自らを浮揚させる方向とは異なる、小泉以前に戻る逆コースをたどってしまったのである。
4. 安倍政権はなぜ見限られたのか
安倍に関しては、国民投票法北朝鮮への取り組みなどは一定の評価を得ているが、郵政造反組復党問題が一番評価されず、内閣支持率が低下する最大の原因だった。もし小泉が2007年参院選でも自民党を率いていれば、若年・中年層の離反をある程度食い止める事が出来たであろうが、郵政造反組を復党させ、自民党既得権益打破を口にせず、イデオロギー路線に突っ走った安倍にはこれらの層を引き止めるのは無理だった。
 以上それぞれのテーマに対する結論を要約したのだが、この結論に至る詳細なデーター分析があるのであり、関心のある方(特にこの結論に違和感のある方)は原著書を参照されたい。私は直感的に感じていた事とこの著者の結論はほぼ一致しており、以前も言ったように、あと2年小泉・竹中でやってもらいたかったと改めて慨嘆した次第である。小泉を都市住民は支持したのであり、小泉改革を継承しなかった安倍・福田・麻生を都市住民は2009年衆院選でも批判したのである。