尖閣・普天間問題                       

    
 昨日大阪倶楽部の午餐講演会で、(財)日本国際交流センター・シニアフェロー田中均氏の、掲題に関するお話を伺った。小泉内閣時代に拉致問題の解決に当たっておられた時の氏の、やや弱腰の言動に疑念を持った事があったが、昨日の一時間余りの、考え抜かれた、説得力ある、分かりやすい主張には深い感銘を受けた。以下はその要旨であり、「私」は田中氏である。
1. 尖閣諸島中国漁船衝突事件 : 尖閣諸島は日本が実効支配をしており、日本の領土である事についていささかの疑念も無く、日中間に領土問題は無い、というのが我国の立場。従って領有権について先方からジャブが来ても、静かにしていよう、と言うのが我国の方針だった。そこへ突然事件が起こったのだが、台湾問題・米中問題・日中問題の三つは一見些細でも中国では共産党政治局マターなので、話は一気に大きくなってしまった。さて今後のシナリオだが、中国政府の要求に沿っての船長の無条件釈放はないと私は思う。そんな事をしたら民主党政権はもたない。では、粛々と国内法で船長を起訴する、のはどうか。大方の日本人は喝采するかも知れないが、中国側の反発が続きエスカレートするだろう。小泉首相靖国参拝問題の際「政冷経熱」と言って妥協が図られたが、今や中国は自信を持って海洋進出などの行動を始めており、日本との関係が悪くなっても構わないと思っている。WTO違反のような事はしないにしても、不買運動とかのトラブルは次から次へと発生しよう。こうなってしまった場合日本の経済はどうなるだろうか。また日中紛争が続いた場合、周辺諸国が必ず日本の味方になってくれるとは限らない、日本に向かって大人の解決が出来ないのか、と言い出す国も多いだろうと私は心配だ。尖閣諸島は日本の領土であり日米同盟の範囲内であり、安全保障問題となれば米国は必ず日本を守ると私は考えるが、そこまで行かない大人の解決を私は望む。もちろん中国にも同じ事を言いたい。現実は今後どう動くだろうか、前原外相が上手に舵とり出来るか、若干の懸念を私は持っている。杞憂に終われば幸いだが。
2. 普天間基地移設問題 : 政権を担うようになった民主党自民党時代に決めたこの問題を見直すのは構わないが、官僚の話をよく聞く事なく、過去の経緯を正確に理解する事なく、「少なくとも県外」と言ったのは大変軽率だった。今年5月に移転先が元の辺野古に戻り、しかも改めて民主党と米国との約束になったのだから、同党としては何としても実施しなくては米国の信頼を一挙に失う。ところでこの実施は可能か? 強行実施以外にないが、私はこれをやってはいけないと思う。5月の約束は果たさなくてはならないが、果たせないのが現実だ。さて米国はどう考えているだろうか。イラク・アフガンで米国は疲弊しており、今後も軍事先行でやるというわけには行かない。パートナーの力を借りたいと思っている。一方我国は、中国と付き合わずには今後生きて行けない、その時米国の力を借りずにやれる筈がない。とすれば、日米中で真剣に話し合う以外にない、と私は思う。この時日本が改めて考えなければならないのは、「日本は自分の国は自分で守る、いざとなれは海賊退治にもテロとの戦いにも出て行くのは当たり前だ」と言う事だ。日本が自国の安全保障について本気で考え、覚悟が出来れば、普天間の問題は一時脇に置いた上での、日米中の話し合いに米国は乗って来ると私は思う。しかし日本人が永年の平和ボケから覚醒出来るか、私は心配だ。
 各国とも国家戦略を考える組織を持つが、日本だけにそれが無い。専門的知識を持つ官僚に考えさせ、政治主導で成案を作成するシステムが欲しい。外交はオールジャパンでやるものだから。