中国の脅威

掲題は昨年末ワック(株)から刊行された古森義久著の書名だが、これはアメリカ議会の超党派の常設政策諮問機関「米中経済安保調査委員会」が、長い時間と膨大なエネルギーを投入して続けて来た中国についての調査の、2008年度報告(2008.11公表)の要旨である。2008年は訒小平による改革開放の開始から丁度30年の年であり、興味深いのだが、同報告書の基本認識は次の2項に記載のように、極めて批判的・警戒的な対中認識である(オバマ政権は若干抑制的だが)。
1. 中国の経済自由化への道がやがては自由市場経済の資本主義、更には民主主義に迄通じるだろうと言う西側の期待は全く打ち砕かれてしまった。中国当局は全く異なる道を選んだのであり、その長期の経済成長への疾走は政治改革への足掛かりではなく、むしろ逆に中国共産党の永続統治の正当化に利用されてしまった。
2. 2008年夏の北京五輪は中国の金メダルの大量獲得こそ実現させたが、その一方、世界の視線を、中国の急速な経済成長の、(1)環境問題への悪影響や、自由な言論・自由な思考・自由な報道への、(2)政府当局による無慈悲な抑圧へと、向けさせる事となった。
 本書の第1部は「中国経済が世界を揺さぶる」だが、中身は(1)米中経済もたれあい、(2)中国の国家ファンドの脅威、(3)中国の高度技術の野望、の三つの章となっている。国家ファンドの代表的な機関は「中国投資有限責任公司」であり、世界各国への金融・投資を通じて自国の戦略を推進しているが、その全貌は一党独裁の秘密のベールに包まれ、透明性や情報開示は全くない。又中国は自国を「技術超大国」にし、技術輸出の増加に努めているが、その為の手段として、自国特定企業への補助金供与や、中国への投資誘致の為の、外国企業への優遇などもある。今後は航空宇宙部門でグローバルパワーになる事を目指し、30個の独自の衛星打ち上げを決めている。
 第2部は「中国の軍事が世界を脅かす」だが、まず総括として中国自身の大軍拡が指摘される。東アジアでの軍事覇権を確立し、米国の長年の軍事プレゼンスを骨抜きにしようと意図しているかに見える。具体論は、まず(1)中国の大量破壊兵器の拡散である。北朝鮮・イラン・シリア諸国に兵器に係わる援助をして来た事は立証済みだ。中国は、イランを「長期に続く同志のような主要地域パワー」とみなし、イランとの協力は中国の利益に沿うと考えている為、イランにウラン濃縮による核兵器開発を止めさせる為の国際協力には協力を拒んでいる。次は(2)中国の主権拡大の策謀である。中国の自国の主権への考え方は攻撃的であり、主権の野望は直ちに自国領土の領有権拡大の野望にも繋がる。中国は、日本の尖閣諸島を自国領だと主張し、沖縄さえも日本の主権を認めない。最近の中国政府は海上・空中そして宇宙の領有に関しての国家主権を新たに主張するようになった。最後は(3)中国の宇宙とサイバーの攻撃である。まず宇宙と言う無限の空間の利用は、軍事力の大幅アップだけでなく経済での利益・住民の保護監視も出来、共産党の独裁統治の保持に欠かせないと考えている。軍事利用には当初は反対を表明していたが、最近中国はその姿勢を全て撤回してしまったし、予防的先制攻撃の準備まで軍事専門家が言及している。一方、サイバー攻撃だが、多数の青年がサイバー活動について人民解放軍のアカデミーで訓練を受けており、インターネット接続への攻撃は、米国全体を麻痺させる事が可能だ。
 [筆者コメント] 日本での中国情報には制限や偏向があるが、例えば中国の軍事力拡大の実態・東シナ海での国家主権の拡大思考・宇宙やサイバー領域での攻撃準備・巨大な中国の国家ファンドの内幕などなど隣国の真の姿をまず知り、その上で日米共同で対中戦略を練るべきだろう。