普天間基地移設問題混迷の原因                

沖縄の米軍基地縮小を目指す普天間問題に関して、二冊の新刊書が七月に刊行された。森本敏著「普天間の謎」(海竜社)と守屋武昌著「普天間交渉秘録」(新潮社)である。この二冊から私はまず「普天間基地問題の経緯」と題する年表を作成し、何故にこの問題が長期に尾を引いたのか把握したつもりである。森本著は、大勢の関係者へのインタビューに基づいてバランスを意識して書いているようなのに対し、守屋著は、日記をベースに文字通り渦中の人として、同様に多くの交渉相手・情報提供者とのやりとりに基づいているものの、ここまで書いていいのかとこちらが心配になる程、遠慮なく率直な内容になっている。以下には守屋著の中の「へぇーー」と驚嘆した数多くの中のほんの一つ「米国提示の名護ライト案(浅瀬案)」に関して以下に転記してみる。
1. 2005.8に、日本側の「L字案(宿営地案)」に対して米国から提示されたのが「名護ライト案」だったが、これについて私(守屋)は見覚えがあった。以前軍民共用空港が検討された時の案の一つで、要するに民間の建設業者が作ったものに過ぎないのだったが、どうして国防総省ともあろうものがこれに乗っかり、米国案として主張して来るのか、「沖縄がこれなら賛成だと言っている」ローレス副次官の提案理由はその一言に終始していた。この裏には名護市の総合建設業を経営する仲泊氏が絡んでいた。驚く事に氏はワシントンまで出向いて行って、沖縄に勤務した事のある米国防総省関係者にこの案を説明し、「理解が得られた」と公言していると私(守屋)は部下から報告を受けた。同時に東京に於いても仲泊氏を始めとする県や市の首脳が、官邸や外務省・内閣府与野党の国会議員・財界人・マスコミにも自らの案を熱心に説いて回っていて、沖縄と米国がいいならと、外務省・自民党もこれに賛成し始めていた。
2. ローレスを説き伏せて、海上埋立の浅瀬案を引っ込めさせ、L字案で合意した後、仲泊氏の会社と双壁をなす大手ゼネコンの社長・前田氏とある日朝食をとったが、氏が言うには「沖縄全体は「L字案」に反対で、政府がこれを修正して地元が推す浅瀬案に少しでも近づけば賛成に回ると、中央の政財界の人達に思い込ませようとしています。しかし、浅瀬案のように海に作るのは、環境派が反対し実現不可能というのが沖縄の常識です。沖縄の一部の人々は、代替飛行場を作るのが難しい所に、案を誘い込んで時間を稼ぎ、振興策を引っ張り出したい。作るにしても反対運動が起きて時間を稼げるようにしたい。国を誤った方向に誘導しようとしているのですよ」。それにしても沖縄県や名護市はそのような考えを何故防衛庁には伝えず、外務省・内閣府・国会議員なのか、私(守屋)は飯島秘書官を通じ小泉総理にお会いした。総理は「分かっている。沖縄から出ている修正の動きは利権だから。おれが抑える」と言った。
3. 与党には沖縄側から接触があり、彼らと通じている議員が居り、マスコミもそれに影響されている事は、私(守屋)にはよく分かっていた。例えば、外交問題評論家の森本氏は「防衛庁は面子に拘り過ぎ」、石破元大臣は「名護は受け入れの苦渋の決断をした所、そこが浅瀬案でOKと言っている」などと名護の肩を持っていた。唯一沖縄出身の下地議員は「これは地元の巧妙な誘い水、応じたらまた普天間飛行場の移設は出来なくなる」と発言し、的を射ていた。
[筆者の感想] 僅かな一例を挙げただけなのだが、多くの関係者のこの種の発言が記載されており、驚かされる。防衛省の守屋元次官は、被告として現在最高裁に上告中だが、小泉総理の信頼と支援を得つつ、沖縄の米軍基地の縮小につき真剣に取り組み、我利我利亡者を排徐した救世主なのではないのだろうか。その成果を無残に破壊した無知蒙昧な鳩山前総理の責任は限りなく重い。